2013 年 74 巻 2 号 p. 405-410
症例は75歳,男性.タール便を主訴に診断された十二指腸第2部から3部にかけての全周性十二指腸側方発育型腺腫を約6年間経過観察ののち切除した.半年に1回の内視鏡,低緊張性十二指腸造影を行い,最終的に生検で癌が検出され膵頭十二指腸切除(PD)を行ったが,切除時点ではリンパ節転移を伴う進行癌であった.十二指腸腺腫は前癌病変と考えられ切除が推奨される.本例は病変の大部分が腺腫であり,癌の局在はごく一部に限られていたため,生検での癌の検出が困難であった.さらに画像的にも大きな変化がなく経過したため経過中早期の癌の診断が困難であった.癌の確定診断がない状態で侵襲の大きいPDを受けることに患者が同意できなかったことが長期の経過観察となった要因と考えられた.本例は十二指腸腺腫の自然史と,長期にわたる経過観察の危険性を示す症例であると考えられた.