2015 年 76 巻 11 号 p. 2654-2659
炎症性乳癌と鑑別を要した肺癌乳房転移の稀な1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は64歳,女性.右肺腺癌(cT1aN3M1b)に対し化学療法中に右乳房全体の発赤と腫脹を認め当科受診となった.当科初診時の胸部造影CT検査で右腋窩リンパ節腫脹と右乳房皮膚,皮下軟部組織の腫脹を認めた.右乳腺内に明らかな腫瘤像は認めなかった.炎症性乳癌もしくは肺癌乳房転移を疑い右乳房皮膚生検を行った.病理検査所見は真皮,皮下組織内のリンパ管内に異型細胞を認め,一部で脂肪組織内に浸潤を認めた.免疫染色にてTTF-1陽性・ER陰性であり,肺癌乳房転移と診断した.
化学療法を継続したが,肺癌診断から27カ月後に原病死された.医学中央雑誌にて,検索キーワード「転移性」「炎症性乳癌」にて検索したところ,本邦における炎症性乳癌様の乳房転移の報告例は14例のみで非常に稀であった.