2015 年 76 巻 6 号 p. 1434-1439
症例は30代の男性.既往に胸髄損傷(Th4-5)および複数回にわたる腎盂腎炎あり.2日前からの尿量低下,腹満感を主訴に救急外来受診.採血上炎症反応高値であるも,腹部症状を特に認めず.尿路感染の再燃と診断された.入院後抗生剤による治療を開始したが改善が得られず.複数回の嘔吐を認めたため,腸閉塞を疑い腹部CT検査施行.S状結腸穿孔による汎発性腹膜炎と診断され,同日緊急手術施行.腹腔内には便汁混じりの腹水が充満しており,腹膜炎の程度は強く発症後数日経過したものと考えられた.手術は穿孔部を含むS状結腸切除術および人工肛門造設術を施行した.術後は出血および遺残膿瘍に対し,2回にわたる再手術を行うも,救命することができ初回手術後52病日に退院となった.
脊髄損傷患者の腹膜炎は腹部症状の消失から,診断に苦慮することが多い.今回われわれは,早期診断に至らなかった下部消化管穿孔の1例を経験したので報告する.