日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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76 巻, 6 号
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平成26年度学会賞受賞記念講演
  • 加納 宣康
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1253-1265
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    病弱ながらもアスリートを夢見ていた少年時代の私であったが,健康上の理由で挫折し,医師への道を選んだ.医学部卒業以来,臨床の第一線で活躍しつつ,学問的にも大学人に負けない業績を上げることを目指してきた.
    1976年卒後,岐阜大学第1外科(当時)に入局し,その後1991年まで,岐阜大学病院を皮切りに,郡上中央病院,国立東静病院,羽島市民病院,松波総合病院など,第一線の臨床病院を中心に,どこの勤務先でも全身全霊で外科医療に取り組んできた結果,赴任先はいずれも栄え,「病院再建屋」という異名をいただいた.臨床病院にいながら,学会・論文発表も続け,特にビデオ時代となった1980年代後半からは,数多くの手術手技をビデオで発表してきた結果,卒後10年余にして,単行本「膵頭十二指腸切除術」(1989年,医学図書出版)の分担執筆者にも選ばれ,また,卒後14年目(1990年)には,日本消化器外科学会の評議員に選出された.現在までに,論文・著書は筆頭ネーム分のみで270を超えた.
    1990年には腹腔鏡下手術の導入を決意し,松波総合病院時代の1991年2月には腹腔鏡下胆嚢摘出術に成功し,1991年5月に帝京大学溝口病院へ転じた.そこでは山川達郎先生のもとで腹腔鏡下手術を中心に多数の業績を積み重ねることができ,同病院を腹腔鏡下手術のメッカにするのに全力で取り組んだ.
    1993年にはそれまでの業績が評価されて,米国外科学会のInternational Guest Scholarに日本人として初めて選出された.
    1996年に亀田総合病院へ招聘され,同年5月から千葉県人となった.そこでは「open surgeryとendoscopic surgeryの並行教育」,「外科医としてのearly exposure」,「24時間,365日,休みがあったら損と思え,厳しさを求める若者のみが入門を許される」という加納イズムをかかげ,「日本で最も多くの外科志望者が集まる病院」を作り上げることに成功した.2014年からは亀田総合病院副院長(外科顧問,内視鏡下手術センター長併任)となり,管理職としての仕事が増えた.
    2014年には日本臨床外科学会学会賞を賜り,外科医としてのマイルストーンとすることができた.跡見 裕会長をはじめ,本会会員の皆様に感謝申し上げる.
    理想の臨床外科医とは,沢山の手術をして学問的業績を挙げ,同時に病院の収益を上げ,後輩外科医を育てる外科医である.挫折を栄養に成長し,常に大志を持って生き続けよう.
原著
  • 大塚 耕司, 村上 雅彦, 有吉 朋丈, 広本 昌裕, 加藤 礼, 山下 剛史, 五藤 哲, 山崎 公靖, 藤森 聰, 渡辺 誠, 青木 武 ...
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1266-1271
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    目的:常時循環型排煙システムAIRSEALの有用性について検討を行った.
    対象と方法:基礎実験ではAIRSEALの気流の流れ,大動物実験では圧の維持性を,臨床検討として胸腔鏡下食道手術におけるAIRSEAL群とUHI-4群の手術成績について比較検討を行った.
    結果:基礎実験では,ポート先端より外反する気流と撹拌状況が描出された.大動物実験ではAIRSEAL群の視認性・操作性が有意に示された.臨床検討では,胸腔内操作時間,胸腔内出血量はAIRSEAL群が有意に優れていた.術中体温は手術開始後1時間,胸腔内操作終了時に,有意にAIRSEAL群において体温低下を認めたが,手術終了時において有意差は認めなかった.
    結語:AIRSEALは,循環型排煙により良好な視野を維持し,手術時間短縮・出血量軽減に寄与した.
臨床経験
  • 荒武 俊伍, 山田 和彦, 新里 陽, 望月 理玄, 橋本 政典, 矢野 秀朗
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1272-1276
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    食道癌手術において心疾患は周術期合併症のリスク因子であり,予防としてβ遮断薬の有用性が報告されている.今回,重度心疾患合併食道癌手術に際して周術期の慎重な管理で対応できた3例を報告する.症例1:79歳の男性,Lt cT3N1M0.三枝病変合併.術前化学療法後に右開胸開腹食道切除再建術施行し術前後に経皮β遮断薬で対処した.症例2:73歳の男性,Ut cT1bN1M0.非虚血性心筋症(EF32%)合併.二期分割手術施行しβ遮断薬を術前は経口,術後は経皮で対処した.症例3:65歳の男性,Lt cT3N1M1(LN104R).左冠動脈主幹部狭窄合併.根治的化学放射線療法後の遺残症例.サルベージ手術(右開胸開腹食道切除術)施行し,β遮断薬を術前は経口,術後は経皮で対処した.結語:いずれの重度心疾患合併食道切除症例も他科との連携や経皮/経口β遮断薬の使用で管理が可能であった.
  • 小田 斉
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1277-1282
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    Kugel法は鼠径部切開創から腹膜前腔に形状記憶メッシュを挿入する腹膜前腔到達法で,2003年1月から2014年12月までに鼠径部ヘルニア2,363例,2,594病変に同法を施行した.手術時間は23±13分(中央値20分)で,初発例2,461病変では22±11分,再発例133病変では41±29分と後者で有意に手術時間が延長した(p<0.001).Kugel法の再発は20例(0.8%)で,合併症は膀胱損傷5例,術中出血1例,術後腸閉塞1例,メッシュ感染1例,慢性疼痛1例であった.膀胱損傷5例のうち4例と術後腸閉塞は腹膜前腔メッシュ修復後再発例に合併した.Kugel法は腹膜前腔の形状記憶メッシュですべての筋恥骨孔を閉鎖でき,初発例と従来法後再発例,Lichtenstein法後再発例には有効であるが,腹膜前腔メッシュ修復後再発例や前立腺癌術後は腹膜前腔癒着による合併症の危険があり適応外とすべきである.
症例
  • 山本 悠太, 小山 洋, 阿部 光俊, 菅谷 慎祐, 池田 義明, 中村 智次
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1283-1288
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は60代,男性.14年前に左腎細胞癌に対し左腎摘出術を施行.6年前と4年前に肺転移に対して肺部分切除術を受けた後,経過観察中であった.前頸部腫瘤を自覚し,超音波検査で複数の頸部リンパ節腫脹と左甲状腺腫を認めた.両者から細胞診を施行し,腎細胞癌甲状腺転移と診断した.また,術前CT検査で右鎖骨下動脈起始異常を認めた.手術適応と考え,甲状腺全摘術・リンパ節摘出術を施行.術中,右迷走神経から直接分岐し,横走する非反回下喉頭神経(non-recurrent inferior laryngeal nerve;NRILN)を同定し温存した.病理診断は腎細胞癌甲状腺転移であった.術前に右鎖骨下動脈起始異常を認めた場合,NRILNを予想する必要がある.また腎細胞癌の既往がある場合,甲状腺をはじめ遠隔臓器に遅発性転移をきたす可能性があるため,症状を生じた場合には画像検査などの精査が必要である.
  • 平井 利明, 徳山 信嗣, 小西 宗治
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1289-1293
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    乳腺葉状腫瘍の発生頻度は,乳腺腫瘍全体の0.3~1%以下程度で,好発年齢は40歳台であり,10代での発症はまれとされている.今回われわれは,11歳の女児に発生した良性葉状腫瘍の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.約2カ月の経過で増大傾向を示す3cm大の右乳房腫瘤を主訴に当科紹介受診.針生検では繊維腺腫との診断であり,画像検査でも繊維腺腫に矛盾しない所見であったが,腫瘍径,および急速な増大傾向を考慮し切除生検を施行したところ,病理組織結果は良性葉状腫瘍であった.葉状腫瘍は線維腺腫と鑑別困難なことがあり,本症例においても症状・画像・組織所見からは術前の鑑別は困難であった.再発・悪性化等を考慮すると安全域を含む切除が望ましいが,特に若年者の良性腫瘍においては,マージンを付けた切除や再切除を行うかどうか検討の余地があり,厳重な経過観察を含め,慎重に治療方針を決定する必要があると考えられた.
  • 松方 絢美, 大井 恭代, 相良 安昭, 四元 大輔, 馬場 信一, 雷 哲明
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1294-1300
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    男性乳腺に発生した被包型アポクリン乳頭癌の1例を報告する.症例は50歳,男性.右乳房腫瘤を自覚し,当院を受診した.初診時,右乳房AC領域に径30mm大の腫瘤を触知したが,19カ月後には径100mm大へ増大した.超音波検査では,多房性嚢胞性腫瘤内に乳頭状充実部分がみられた.穿刺吸引細胞診では鑑別困難の診断であり,診断と治療を兼ねた腫瘍切除術を施行した.病理組織学的に,乳頭状充実部がみられる多房性嚢胞性腫瘤であり,嚢胞壁はアポクリン細胞で覆われていた.筋上皮細胞が消失していたが,核異型は軽度であった.低異型度アポクリン病変には明確な基準がないため,良悪判断が困難であったが,本症例は組織所見と臨床所見より,Encapsulated apocrine papillary carcinoma with low grade malignancyと判断した.術後7カ月経過しているが,再発を認めていない.
  • 小倉 道一, 谷 眞弓, 榎本 克久, 櫻井 健一, 平野 智寛, 天野 定雄
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1301-1307
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    皮膚筋炎(dermatomyositis;DM)は悪性腫瘍の合併が多く,間質性肺炎(interstitial pneumonitis;IP)併発例は予後不良とされる.今回われわれは,DMと縦隔気腫を伴うIPを合併した閉経前乳癌の1手術例を経験した.症例は35歳の女性.右腋窩腫瘤と握力低下,呼吸苦を主訴に紹介受診した.精査したところDMおよびIP,右乳癌T2N2aM0 stage IIIaの診断となった.IPの治療にcyclophosphamide(;CPA)が用いられることを考慮し,術前化学療法としてEC療法(epirubicin+CPA)を施行したが,IPは増悪傾向で縦隔気腫を併発した.また,腋窩リンパ節転移の縮小したものの,原発巣の縮小が得られないため手術を施行した.術後,縦隔気腫は速やかに消失し,DMとIPは共に改善傾向を示したため,DMとIPが乳癌の腫瘍随伴症候群であったことが示唆された.
  • 大西 桜, 上松 俊夫, 鈴木 秀昭, 横山 真也
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1308-1313
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は44歳,女性.12歳時,von Recklinghausen病(以下,R病)に伴う側弯症を診断され,治療のため長期間,頻回のX線検査を受けていた.2012年4月,左乳房に出血を伴う腫瘤を認め受診した.CTで乳頭直下に6cm大の腫瘤と同側腋窩リンパ節腫大を認めた.針生検で浸潤性乳管癌,ER(-),PgR(+),HER2(1+)と診断し,術前化学療法後に左乳房切除+腋窩隔清(Bt+Ax)を施行した.最終病期はpT4c,pN0,M0,stage IIIB,Grade 1bであった.
    R病合併乳癌の報告数は近年増加している.R病患者の約10%に側弯症が合併するといわれている.R病性側弯症を伴う患者は自験例のように頻回のX線被曝によりさらに乳癌発症のリスクが高まる可能性がある.R病合併乳癌の1例を報告すると共にX線被曝による乳癌発症のリスクを考察した.
  • 武田 昂樹, 中川 朋, 山田 晃正, 小西 健, 奥山 正樹, 西嶌 準一
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1314-1319
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は40歳台,男性.201X年2月,1週間来の腹痛と嘔吐の増悪を主訴に当院を受診.来院時,腹部全体の圧痛・反跳痛を認めた.腹部X線画像で上行結腸周囲に多数の点状石灰化像を認めた.小腸niveau像を認めたが,free airは認めなかった.腹部造影CT検査では,右結腸静脈の石灰化に加え,上行結腸の腸管壁の造影不良と壁肥厚を認めたため,腸管壊死と診断して,緊急開腹手術を行った.開腹時所見では,上行結腸から横行結腸の中央部に腸管壊死を認め,結腸部分切除を行った.病理検査では,粘膜面の潰瘍形成,静脈血管壁の石灰化と上行結腸粘膜下層の広範な線維化領域を認め,特発性腸間膜静脈硬化症による虚血性大腸炎と診断した.術後経過は良好で,術後16病日に退院となった.本症例は10年以上の漢方薬(梔子柏皮湯®)の服用歴があり,病因との関連性が示唆された.現在,漢方薬内服を中止して経過観察中である.
  • 桧垣 直純, 中根 茂, 岡田 かおる, 三宅 泰裕, 岡 義雄, 根津 理一郎
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1320-1325
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.2007年10月に胸部異常陰影から,肺扁平上皮癌と診断された.腎静脈以下の下大静脈の欠損があり,奇静脈・半奇静脈などの側副血行が発達していた.奇静脈・右主気管支への浸潤が疑われ,術前化学療法を施行し,著効した.2008年4月,開胸時奇静脈との剥離は可能で,右上葉切除術を施行した.病理学的に癌細胞を認めず,pCRと診断された.術後経過観察中にCEAの上昇があり,2009年5月に肝転移を伴うS状結腸癌に対して,S状結腸切除術および肝部分切除術を施行した.2010年12月に吻合部局所再発,さらに,2014年5月に右肺下葉原発の異時性多発肺癌に対して手術を施行した.
    腎静脈以下の下大静脈欠損症の患者に対して外科的治療を要する場合には,側副血行路として奇静脈系あるいは後腹膜を介しており,肺癌などの胸部手術や大腸癌などの腹部手術の際には出血に対する注意と血流の維持に留意することが大切である.
  • 鈴村 雄治, 橋本 雅之, 一瀬 増太郎
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1326-1331
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は48歳,男性.発熱を主訴に近医受診.胸部X線写真で左全肺野に無気肺を伴う肺炎像を認めた.胸部CTにて左主気管支内に腫瘤性病変を疑う所見があり,気管支鏡検査で左主気管支をほぼ閉塞するポリープ状の腫瘍性病変を認めた.気管支鏡の所見から良性腫瘍が疑われ,気管支鏡下切除術目的で当科紹介となった.全身麻酔下に高周波スネアによる切除術を施行し低悪性度粘表皮癌の診断を得た.左肺炎の改善を待って,二期的に根治術として左主気管支管状切除術を施行した.現在術後5年6カ月経過するが再発は認めていない.二期的に手術することにより術前に正確な診断が得られ,肺炎の改善を待ったことにより術後合併症なく経過した.閉塞性肺炎を伴う低悪性度の気管支腫瘍に対しては,二期的手術も考慮すべき方法と考えられた.
  • 池田 秀明, 山下 裕, 大石 正博, 山村 方夫, 加藤 大, 水野 憲治
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1332-1337
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性.検診胸部X線写真で右下肺野の腫瘤影を指摘され,当院紹介となった.CT,PET/CTにて右肺中葉に3.2cmの腫瘤が存在し,甲状腺右葉下部・右鎖骨上窩リンパ節・気管分岐下リンパ節にFDG集積を認めた.肺腫瘤はCTガイド下生検にて扁平上皮癌と診断した.頸部エコーでは,甲状腺右葉下部に最大7mmの低エコー部が散在していたが甲状腺腫瘍として認識できなかった.右鎖骨上窩リンパ節は針生検にて甲状腺乳頭癌リンパ節転移と診断された.よって,甲状腺癌と重複したcN2肺癌と診断し,右肺中葉切除術ND2a-1と甲状腺右葉切除術D2aを施行した.甲状腺癌の存在がなければcN3肺癌で手術適応外となることが多いと思われる.肺癌に伴い頸部に結節を認める症例に対しては,安易にcN3肺癌とせず甲状腺癌リンパ節転移や副甲状腺腫瘍,神経原性腫瘍,悪性リンパ腫等との鑑別を行い手術適応を追求することが重要である.
  • 廣津 周, 渡邉 昌也, 佐藤 真輔, 大端 考, 大場 範行, 高木 正和
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1338-1342
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は86歳,女性.3年半前に健診で胸部異常影を指摘され受診し,食道裂孔ヘルニアとMorgagni孔ヘルニアの併存と診断されたが,無症状かつMorgagni孔ヘルニアの脱出内容物は大網であり経過観察となった.今回,労作時呼吸困難を主訴に再診し,ヘルニア門と脱出内容物の増大を認め手術を施行した.手術は腹腔鏡下で,まず食道裂孔ヘルニア,次いでMorgagni孔ヘルニアの順に行った.食道裂孔ヘルニアは滑脱型,ヘルニア門は長径5cmであり,食道裂孔は縫縮した後にメッシュで補強した.次いでNissen法に準じて噴門形成をした.Morgagni孔ヘルニアのヘルニア門は長径4cm,内容は結腸であり,ヘルニア門はメッシュを用いて修復した.術後経過は良好であった.食道裂孔ヘルニアとMorgagni孔ヘルニアの併存例に対する腹腔鏡下の修復術は安全に施行できる術式であった.
  • 廣澤 貴志, 高橋 道長, 後藤 慎二, 上野 達也, 佐藤 俊, 内藤 広郎
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1343-1347
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は84歳,女性.パーキンソン病と認知症にて当院神経内科通院中であったが,前夜に屋外を徘徊して転倒し,前胸部痛と嚥下困難のため救急搬送された.造影CTにて後縦隔に長楕円体状の腫瘤(4×4.5×12cm)を認め,食道粘膜下血腫の診断にて保存的治療の目的で入院となった.3病日のMRIでは,後縦隔にT1強調画像で低信号の中に高信号を呈し,4病日の上部内視鏡検査では,中部食道に内腔3/4以上を占拠する表面が暗赤色の粘膜下隆起性病変を認めた.保存的加療を行ったところ,11病日のCTでは病変は著明に縮小し,14病日の上部内視鏡検査では,粘膜下隆起性病変の縮小と縦走潰瘍の出現を認めた.嚥下困難は経時的に改善し,22病日に自宅退院した.発症1カ月後の内視鏡検査では,ほぼ正常な食道粘膜と内腔であった.今回われわれは,成因としては稀な外傷によって発症したと考えられる食道粘膜下血腫を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 濵田 隆志, 金高 賢悟, 米田 晃, 高槻 光寿, 黒木 保, 江口 晋
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1348-1351
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    特発性食道破裂は胸部下部食道に好発するが,今回,保存的治療により軽快した胸部上部~中部特発性食道破裂の1例を経験したので報告する.症例は60代,女性.嘔吐後に胸痛を訴え救急搬送.既往歴に大動脈炎症候群があり,プレドニン8mg/日を内服中であった.胸腹部単純CTで気管分岐部食道周囲にair bubbleを認め,上部内視鏡検査では上部~中部食道に連続性の縦走潰瘍あり,特発性食道破裂と診断.縦隔内限局型で全身状態は安定していたため保存的治療を行った.入院15日目より食事開始し,合併症なく経過し,入院43日目に退院となった.胸部上中部食道での破裂の報告は稀であるが,本症例では大動脈炎症候群とステロイド長期内服歴が発生機序に影響したと思われた.
  • 岡田 智美, 松井 隆則, 山田 知弘, 廣田 政志, 藤光 康信, 小島 宏
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1352-1355
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は40歳,女性.胃癌の診断で腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を施行し,術後補助化学療法を施行していたところ,術後約4カ月の採血検査でCA19-9の急激な上昇が見られた.画像検査では胃癌再発や他の悪性疾患,胆膵などの異常などのCA19-9高値と関連する所見は認められなかったため経過観察を続けていたが,術後約8カ月に全身倦怠感と口渇が強くなり,諸検査で1型糖尿病に起因する著明な高血糖の存在が明らかとなった.その後,血糖コントロールの改善とともにCA19-9は正常化し,術後1年2カ月経過した現在まで腫瘍マーカーの再上昇を認めていない.CA19-9の上昇の一因として高血糖が知られており,血糖値の変動をきたしやすい胃切除後のCA19-9上昇は高血糖に関連する偽陽性も念頭に置き適切な検索と治療が必要であるものと考えられた.
  • 出村 公一, 藤尾 長久, 今川 敦夫, 小川 雅生, 川崎 誠康, 亀山 雅男, 吉村 道子, 小林 庸次
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1356-1361
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    AFP産生胃癌はまれな胃癌であり予後不良である.AFP産生胃癌術後リンパ節再発に対し,手術を含めた集学的治療が有効であった1例を経験したため報告する.症例は68歳,男性.胃癌に対し幽門側胃切除を施行し,術後免疫組織学検査にてAFP産生胃癌と診断した.最終診断はT1N2H0P0M0 Stage IIであった.UFT/LVによる術後補助化学療法施行中にリンパ節再発(No.13,No.16b1)をきたし,化学療法を変更した.S-1,S-1/CDDPを施行したがPDとなり,PTXによる4th line化学療法を施行したところ著効し,血清AFP値も正常化した.AFP値が微増しだした段階で,CTとPETにてその他の転移がないことを確認したうえで,再発リンパ節の摘出を行った.術後マーカーが正常化し,その後,6年4カ月(初回治療から8年8カ月)長期無再発が得られている.
  • 石川 英樹, 網倉 克己, 川島 吉之, 坂本 裕彦, 田中 洋一, 西村 ゆう
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1362-1368
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    B細胞性リンパ腫に対する標準治療はR-CHOPであり高い奏効率である一方,合併症である瘢痕狭窄により手術を要した報告も散見される.今回当院で化学療法後に狭窄をきたし,手術を要した消化管悪性リンパ腫8例を経験したため報告する.組織型はいずれもdiffuse large B-cell lymphomaであり,R-CHOPが施行された.1~4コースで狭窄が出現することが多く,狭窄箇所はいずれもリンパ腫の病巣部であったものと考えられ,十二指腸1例・胃3例・回盲部2例・回腸1例・上行結腸1例であった.7例に切除術が行われ病理学的CRであり,バイパス術の1例も臨床的CRであった.病理組織学的には腫瘍は消失し線維組織に置換されていた.6例が無再発生存中,他病死1例,原病死1例であった.化学療法後の合併症として瘢痕狭窄による通過障害をきたすことがあり留意すべきと考えられた.
  • 友杉 俊英, 川瀬 義久, 宇野 泰朗, 日比野 壯貴, 大河内 治, 坪井 賢治
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1369-1372
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.精神発達障害があり意思疎通は困難で,障害者福祉施設にて生活されていた.朝食時に陶磁器製の茶碗を破損,施設職員が片付けた際に径40mmほどの破片が見当たらないため,誤飲の可能性について考慮され当院救急外来受診した.胸腹部X腺検査では明らかな異物は指摘されなかった.翌日,発熱にて再度当院救急外来受診した.腹部CT検査にて十二指腸水平脚に径50mm×30mm程度の異物を認め,十二指腸壁周囲の脂肪織濃度上昇を認めたため,誤飲陶磁器による十二指腸水平脚穿通と診断し,同日緊急手術を施行した.十二指腸水平脚に長軸方向に2cm程度の切開を加え異物を摘出,切開部は短軸方向に縫合閉鎖した.術後経過は良好で,合併症無く経過し退院となった.今回われわれは,誤飲陶磁器による十二指腸水平脚穿通の稀な1例を経験したので,若干の文献的考察も含めて報告する.
  • 関 亮太, 小川 康介, 桑原 博, 中村 典明, 五関 謹秀
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1373-1377
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の男性,皮膚黄染を主訴に当院を受診,閉塞性黄疸の診断で入院となった.腫瘍マーカーはDUPAN-2のみ上昇していた.Vater乳頭部には発赤や腫大はみられなかった.画像検査で肝内胆管,総胆管に軽度拡張を認めたため内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)留置し減黄を行った.胆汁細胞診や擦過細胞診では悪性所見を得られなかったものの,悪性腫瘍の可能性が否定できず,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を行った.病理学的には,病変はVater乳頭部に存在し,異型は認められず,胆管周囲の線維組織にも腫瘍性病変は認めなかったが,Vater乳頭部胆管にAMHが確認され確定診断に至った.十二指腸乳頭部に発生した腺筋症(adenomyomatous hyperplasia:以下AMH)の1例を経験したため報告する.
  • 十倉 三千代, 松山 貴俊, 柿本 應貴, 吉村 哲規
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1378-1382
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.上腹部痛と嘔吐を主訴に救急外来を受診した.上部消化管造影検査および注腸検査ではTreitz靱帯の形成がなく,十二指腸から小腸は右側,結腸は左側を走行し,腹部造影CT検査では小腸が上腸間膜動脈を中心に回転するwhirl-like patternを認めた.また,十二指腸から空腸への移行部付近に閉塞部位を認めた.腸回転異常症,中腸軸捻を伴う十二指腸閉塞症と診断した.腸管の血流障害はなく,絞扼性イレウスの所見を認めなかったため,待機的に腹腔鏡下Ladd手術を施行した.術後は症状の再燃なく経過している.成人発症の腸回転異常症はまれで,症状も様々なため,症例ごとに腹腔鏡手術の適応を判断すべきと考える.
  • 山崎 祐樹, 新保 敏史, 前多 力, 吉光 裕, 佐久間 寛, 北村 星子
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1383-1386
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は39歳,男性.子供に逆上がりを教えていた際に鉄棒で下腹部を強く打った.痛みは消失していたが,夕食後より下腹部痛および嘔吐が出現し,前医を受診した.経過観察目的に入院していたが,翌朝より高熱が出現し,腹部CTにて微量の遊離ガスを認め,当科紹介受診となった.消化管穿孔と診断し,緊急手術を施行した.回腸に約30cmにわたり浮腫状で発赤を伴う腸管および腸間膜の肥厚を認めた.その他の腸管には異常を認めず,小腸切除を施行した.切除標本では腸間膜付着部に沿って縦走潰瘍を認め,外傷により微小穿孔が起こったものと考えられた.病理所見で類上皮細胞性肉芽腫と全層性の炎症性細胞浸潤を認め,Crohn病と診断した.
    Crohn病の患者では比較的低エネルギーの外傷でも腸管穿孔を起こし得ると考えられ,低エネルギー外傷による腸管穿孔の患者では稀ではあるが,Crohn病も念頭に置きながら診察を行う必要がある.
  • 山中 直樹, 藤井 昌志, 萱島 理, 亀岡 宣久, 横畑 和紀, 的場 直行
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1387-1392
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は43歳の男性.若年時に虫垂切除の既往あり.7日前からの右下腹部鈍痛を主訴に来院.腹部CTで上行結腸腸間膜に膿瘍形成が疑われたが,臨床症状・炎症所見に乏しいため,発症後24日目に待機的に腹腔鏡下手術を施行した.腹腔内を観察すると,上行結腸腸間膜に4cm径の硬い腫瘤を認め,回盲部から上行結腸と一塊となっていたため腹腔鏡下に右側結腸切除術を施行した.摘出標本で腸間膜内の炎症性腫瘤に向かって盲腸と回腸末端に開口部をもつ腸管様構造物を認め,病理組織学的に腸管重複症が化膿により穿通をきたして腸間膜膿瘍を形成したものと診断された.成人に発症する穿孔・穿通性腸管重複症は稀であり,今回腹腔鏡下手術で切除しえた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 秋田 倫幸, 五明 良仁, 斉藤 拓康, 池野 龍雄, 坂口 博美, 宮本 英雄
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1393-1396
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,男性.上腹部痛と嘔吐を主訴に来院した.腹部CTで小腸腫瘍によるイレウスと診断した.原発性小腸癌またはgastrointestinal stromal tumor(GIST)を疑い手術を施行した.腹腔鏡補助下に手術を施行した.術中所見ではBauhin弁より約50cm口側の回腸に直径5cmの腫瘤を認め,小切開創からの腫瘍切除が可能と判断し小腸部分切除術を施行した.摘出標本では輪状狭窄型の腫瘍を認めた.病理組織学的検査では小腸粘液癌と診断され,腫瘍近傍のリンパ節に転移を認めた.pT3(SS),ly(+),N1(1/4),stage IIIA(UICC第7版).今回,われわれはイレウス症状を契機に発見され,腹腔鏡補助下に切除しえた稀な原発性小腸粘液癌の1例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 吉田 純, 岡部 正之, 野口 純也, 古川 哲, 日野 東洋
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1397-1401
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.2011年12月,下痢便時に鮮血を認め,精査目的に当院内科紹介受診.大腸内視鏡検査にて,上行結腸内に多数の憩室を認めた.その1憩室より湧出性出血を認め,クリップにて止血した.さらに,口側より鮮血を認め,盲腸部まで確認したところ,虫垂開口部より拍動性出血を認めた.クリップでの止血は困難で,貧血の進行も認めたため,同日,緊急手術(開腹による虫垂を含む盲腸部分切除術)を施行した.摘出標本肉眼所見では,虫垂内に憩室を3箇所認め,その1つの憩室の粘膜のみ発赤変化を認めた.病理所見では,同部位に明らかな破綻血管を同定することはできなかったが,菲薄化した筋層に覆われた虫垂真性憩室出血と診断した.虫垂憩室症は稀な疾患であり,術前診断は困難である.その憩室出血となると,さらに稀な疾患である.今回,われわれは虫垂真性憩室出血と上行結腸憩室出血が同時に併発したという稀な症例を経験したので報告する.
  • 浅井 泰行, 山村 和生, 栗本 景介, 松下 英信, 福山 隆一, 石榑 清
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1402-1407
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    69歳,男性.健診で虫垂腫瘍を指摘され当院紹介受診した.右下腹部に軽度圧痛を認めた.血液生化学所見に異常はなく,血清CEAが8.2ng/mlと軽度上昇を認めた.腹部造影CT検査では虫垂は70×30mm大に腫大し,内部に液体貯留を認めた.大腸内視鏡検査では虫垂開口部がドーム状に隆起したvolcano signを認めた.生検結果は陰性だったが,虫垂粘液嚢胞腫瘍を疑い回盲部切除術および回結腸動脈根部までのリンパ節郭清を行った.摘出標本では虫垂内腔に無色透明なゼリー状の粘液を認めた.病理組織検査上,虫垂尖端部に粘液産生性の腫瘍細胞を認め,粘液嚢胞腺腫と診断された.さらに,虫垂根部には粘膜下を主座とする杯細胞主体の腫瘍を認め,免疫化学染色の結果,杯細胞カルチノイドと診断された.
  • 樋渡 勝平, 森本 芳和, 水野 均, 安政 啓吾, 河野 恵美子, 山崎 芳郎
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1408-1412
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    蜂窩織炎性結腸炎は大腸の急性化膿性感染症であり,報告例は少ない.血液透析患者に発症した蜂窩織炎性結腸炎の1救命例を経験した.症例は69歳,女性.主訴は下痢.現病歴は2014年2月初旬,下痢・嘔吐・腹痛が出現,右下腹部に腹膜刺激症状を呈し,急性腹症と診断した.糖尿病性腎症のため週三回の血液透析,冠動脈バイパス術,動脈閉塞のため右下肢切断術の既往がある.腹部CT検査は,盲腸から上行結腸にかけ,腸管壁の著明な肥厚と壁内ガス像,腸管周囲の脂肪織濃度の上昇を認めた.腸管虚血を疑い緊急開腹術を施行した.盲腸壁は菲薄化し壊死を伴っており,回盲部切除術を施行した.病理組織学的所見は,粘膜下層を中心に高度の膿瘍形成を示し,グラム陽性球菌の細菌塊が散在しており,蜂窩織炎性結腸炎と診断した.術後は創離開,胆管炎,動静脈シャント閉塞など重篤な合併症を併発し,術後管理に難渋したものの,112日目に軽快退院した.
  • 横山 靖彦, 山本 佳生, 佐藤 崇, 中島 裕一, 橘 球, 内田 正昭
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1413-1416
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,女性.間歇的な下腹部痛を主訴に当院救急外来を受診.右下腹部に限局して圧痛と反跳痛,筋性防御を認めた.腹部造影CTで上行結腸に層状構造を呈する腫瘤像を認めたため腸重積と診断した.腹水はなく,明らかな腫瘤性病変の指摘もできなかった.大腸内視鏡により整復を施行し,速やかに腹部症状も消失した.その後の精査で腸重積の原因となるような器質的疾患は認めず,特発性腸重積と診断した.整復後6カ月が経過したが,再燃することなく外来経過観察中である.内視鏡的に整復しえた成人の特発性腸重積症の報告は稀であり,若干の文献的考察を含め報告する.
  • 森 至弘, 山田 達也, 川島 吉之, 中村 聡, 江原 一尚, 田中 洋一
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1417-1423
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,男性.つかえ感を主訴に近医を受診し,上部消化管造影にて胃癌が疑われたため,当院を紹介された.胃癌,cT3(SS)N1M0,cStage IIBと診断し,網嚢切除を伴う幽門側胃切除を施行した.術後6日目に突然敗血症性ショック,急性腎不全,急性呼吸不全を発症した.CT検査を施行したところ,縦隔気腫・皮下気腫を認めたが,その他に腹腔内には所見を認めなかった.全身管理にて状態は改善したが,術後14日目に腹腔内膿瘍を発症,ドレーン造影にて横行結腸穿孔と診断された.人工肛門造設および直達のドレナージで,瘻孔および腹腔内膿瘍は改善した.
    稀ではあるが本症例のように結腸穿孔に縦隔気腫を伴うことがあり,縦隔気腫の原因疾患として鑑別診断に挙げることが必要と考えられた.
  • 宮内 善広, 大貫 雄一郎, 内田 嚴, 松岡 弘泰, 國光 多望, 松原 寛知
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1424-1428
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例:喉頭癌に対して喉頭全摘後の73歳の男性.綿棒を用いて永久気管孔の処置をしていた際に,深部まで誤挿入し気道出血したため来院した.気管支鏡とCTにて,気管分岐部直上の膜様部損傷および縦隔気腫と診断し手術を施行した.手術は右側方開胸で奇静脈のやや頭側に気管膜様部損傷を確認した.同部位を連続縫合閉鎖し,開胸時に作成した有茎肋間筋弁を食道と損傷部位の間に充填した.考察:鈍的な気道内圧上昇による気管膜様部裂傷であれば保存的な治療も選択される場面もあるが,本症例では全層欠損を伴う損傷で自然閉鎖は困難と考え,早期に外科的閉鎖を行った.胸腔鏡により食道を剥離して充填する術式も考慮したが,原疾患が喉頭癌であることから,有茎肋間筋弁による充填術式を選択し良好な結果を得た.
  • 滝口 光一, 森 義之, 飯野 弥, 須藤 誠, 柴 修吾, 藤井 秀樹
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1429-1433
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は59歳の男性で,横行結腸癌の診断にて結腸部分切除術(横行結腸),D3リンパ節郭清を施行した.術後経過は良好で,術後11日目に退院したが,退院後3日目に腹部膨満・腹痛・嘔吐を認め来院し,上腸間膜動脈症候群と診断した.入院後,絶食と胃管挿入にて症状は改善した.入院後17日目より食事を開始し,その後は再燃を認めなかった.上腸間膜動脈症候群は,上腸間膜動脈と大動脈との角度の狭小化が原因とされるが,今回著者らは,発症前,発症時および症状改善後の上腸間膜動脈と大動脈の角度の変化を経時的に画像(水平断,矢状断)で評価し,発症機序について考察したので報告する.
  • 有明 恭平, 野沢 佳弘, 梶原 大輝, 竹村 真一, 土井 孝志, 黒田 房邦
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1434-1439
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は30代の男性.既往に胸髄損傷(Th4-5)および複数回にわたる腎盂腎炎あり.2日前からの尿量低下,腹満感を主訴に救急外来受診.採血上炎症反応高値であるも,腹部症状を特に認めず.尿路感染の再燃と診断された.入院後抗生剤による治療を開始したが改善が得られず.複数回の嘔吐を認めたため,腸閉塞を疑い腹部CT検査施行.S状結腸穿孔による汎発性腹膜炎と診断され,同日緊急手術施行.腹腔内には便汁混じりの腹水が充満しており,腹膜炎の程度は強く発症後数日経過したものと考えられた.手術は穿孔部を含むS状結腸切除術および人工肛門造設術を施行した.術後は出血および遺残膿瘍に対し,2回にわたる再手術を行うも,救命することができ初回手術後52病日に退院となった.
    脊髄損傷患者の腹膜炎は腹部症状の消失から,診断に苦慮することが多い.今回われわれは,早期診断に至らなかった下部消化管穿孔の1例を経験したので報告する.
  • 近藤 宏佳, 山口 茂樹, 石井 利昌, 田代 浄, 原 聖佳, 桑原 隆一
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1440-1444
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性.血便を主訴に前医受診し,精査の結果,直腸癌と診断され,手術目的で当院紹介となった.術前3D-CT angiography(3D-CTA)にて下腸間膜動脈が上腸間膜動脈より分岐していた.術前診断はRS,T3(SS)N0M0 Stage IIであり,腹腔鏡下高位前方切除術,十二指腸尾側レベルまでの郭清を行った.術後経過は良好で術後6日目に退院となった.病理組織学的診断はtub2,2型,腫瘍径64×39mm,pT3(SS),pPM0,pDM0,pRM0,pN0(0/34),fStage IIであった.術後1年まで再発を認めていない.当院において,2007年4月から2014年5月までに左側結腸および直腸を主占居部位とした大腸癌原発切除症例数は1,516例あるが,下腸間膜動脈が上腸間膜動脈から分枝する分岐異常を認めたのは本症例のみと,非常にまれであり,ここに報告した.
  • 萩原 英之, 去川 秀樹, 宮前 拓, 鎌田 順道, 加納 恒久, 内山 喜一郎
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1445-1449
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    大腸顆粒細胞腫は比較的稀な疾患とされている.今回,早期胃癌を契機に発見され,腹腔鏡下で同時に切除を行った盲腸多発顆粒細胞腫の1例を経験した.症例は47歳の男性.主訴は心窩部痛,上部消化管内視鏡検査で胃前庭部のIIc病変指摘,当院紹介となった.CTにて盲腸に約1cm大の腫瘤が認められ,また下部消化管内視鏡で同部に12mm大と10mm大の2個の粘膜下腫瘍が認められた.早期胃癌および盲腸粘膜下腫瘍の診断で,腹腔鏡補助下幽門側胃切除+回盲部切除を施行した.術後の病理組織検査で盲腸多発顆粒細胞腫と診断された.術後第8病日に縫合不全で再手術したが,その後の経過は良好で第23病日で軽快退院となった.大腸顆粒細胞腫は定型的な治療はなく,本症例では早期胃癌に対する手術と同時に回盲部切除も施行したが,術前診断がついていない多発性の腫瘍であったことを考えると,妥当な術式であったと考えられた.
  • 三宅 正和, 武田 和, 池田 正孝, 宮崎 道彦, 関本 貢嗣, 中森 正二
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1450-1455
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性.人工肛門周囲の硬結と熱発を主訴に近医を受診し,最初は人工肛門周囲膿瘍と診断され治療されていたが,軽快なく当院紹介受診となった.術前検査にて人工肛門癌皮下組織浸潤,左鼠径リンパ節転移の診断にて腫瘍切除,左鼠径リンパ節郭清,人工肛門再造設を施行した.病理組織学的検査では,高分化腺癌で皮下組織への浸潤を認めたが腸管の辺縁動脈周囲のリンパ節は陰性であった.また,左鼠径リンパ節には1個の転移を認めた.人工肛門部癌の発生は稀とされ,さらに鼠径リンパ節へ転移を認めたという報告は非常に少ない.鼠径リンパ節に転移を認めても根治できる可能性があり,外科的切除を行うことが重要である.
  • 網崎 正孝, 木原 恭一, 鈴木 一則, 中村 誠一, 澤田 隆, 清水 哲
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1456-1462
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    肝紫斑病は,肝実質にびまん性に拡張した血液貯留腔が出現する良性疾患である.ときに進行し,命に関わることがある.また,非典型的所見を呈することがあり画像診断が時に困難となる.症例は74歳の男性.検診で多発肝腫瘤を指摘された.術前検査では肝血管肉腫を疑い,確定診断目的に腹腔鏡下肝生検を行った.術中所見では肝に暗紫色の病変が多発していたが腫瘤は形成していなかった.切除したS5の病変の病理所見で肝紫斑病と診断した.術後経過良好で退院されたが,10カ月後に腫瘍の破裂により死亡した.肝紫斑病で死亡した症例を経験した.肝紫斑病は血管性病変であり,生検切除時に出血の危険があるとされる.本症例では腹腔鏡下肝生検により,安全で確実に確定診断することができた.
  • 榛澤 侑介, 高屋敷 吏, 内 玲往那, 齋藤 武, 吉田 英生, 宮崎 勝
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1463-1468
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は26歳の女性.生後5カ月時,先天性胆道拡張症の診断にて小児外科にて肝外拡張胆管・胆嚢切除術,胆管空腸吻合術を施行された.13歳時に肝内結石を指摘され,胆管炎治療するも再燃したため,内科治療は困難と判断されて手術目的に当科紹介となった.画像診断にて左肝管からB3にかけて限局する肝内胆管拡張とその内腔に多数の結石,下流の相対的胆管狭窄および胆管空腸吻合部狭窄を認めた.先天性胆道拡張症術後肝内結石と診断し,左肝切除術と胆管空腸再吻合術を施行した.術後合併症なく退院し,肝内結石再発や胆管炎症状再燃もなく経過観察中である.
    先天性胆道拡張症術後肝内結石症は10年程度経過後に発症することが多く,自験例のように初回手術後20年を越えた外科治療施行症例は稀である.また,自験例では肝内結石治療に加えて,肝内胆管の相対的狭窄および限局性の遺残肝内胆管拡張の完全切除に肝切除術が有用と考えられた.
  • 志村 充広, 水間 正道, 元井 冬彦, 片寄 友, 高瀬 圭, 海野 倫明
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1469-1473
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は87歳,女性.30年前に肝血管腫に対し肝外側区域切除術の既往がある.7年前より肝尾状葉に5cm大の血管腫が指摘されていたが,増大傾向は認めなかった.2014年2月に外傷の既往なく突然の胸痛を自覚し,前医を受診,造影CT検査で肝尾状葉の血管腫から腹腔内へ造影剤の漏出を認め,肝血管腫の自然破裂と診断され,加療目的に当院に緊急搬送された.経カテーテル的動脈塞栓術を施行し止血した.術後合併症なく経過,再出血のリスクも考えられたが,超高齢であることを考慮し十分にインフォームドコンセントの上,肝切除は行わない方針とし,第15病日に退院となった.現在,術後12カ月経過したが,再破裂なく経過している.肝血管腫の自然破裂はまれであり,本症例は本邦報告例では最高齢である.経カテーテル的動脈塞栓術後に肝切除せず経過観察とした報告もなく,治療方針に関して今後の参考になる症例と考えられ,文献的考察を加え報告する.
  • 山本 洋平, 松山 貴俊, 吉村 哲規
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1474-1478
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.下痢,食欲不振で前医を受診し,黄疸を指摘され当院を紹介受診した.腹部CTにて胆道気腫を認め,内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)では萎縮した胆嚢と連続して結腸肝彎曲部が造影された.下部消化管内視鏡検査では横行結腸右側に瘻孔開口部を認め,瘻孔造影検査にて胆嚢と総胆管が造影された.以上より,胆嚢結腸瘻と診断し腹腔鏡下に手術を施行した.胆嚢と横行結腸との間に瘻孔を認め,自動縫合器を用い処理し,胆嚢摘出術を施行した.術後経過は良好で術後11日目に退院した.胆嚢結腸瘻に対する腹腔鏡下手術は有用であると考えられた.
  • 三城 弥範, 酒部 克, 森村 圭一朗, 金沢 源一, 清田 誠志, 田中 宏
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1479-1483
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は35歳,男性.右下腹部痛を主訴に近医を受診し,急性虫垂炎の疑いにて当院へ紹介となった.採血では白血球の上昇を認め,CTにて虫垂の腫大や炎症所見はなく,約2cmの腫瘤を盲端とした回腸と連続する索状物を認めたため,Meckel憩室炎を疑った.絶食と抗生剤投与にて症状は一旦改善するも,食事開始とともに腹痛が再燃したため,腹腔鏡下手術を行った.回腸末端から120cmに先端に強い炎症を伴うMeckel憩室を認め,憩室根部で切除した.病理組織検査では,真性憩室の頂部にHeinrich I型の異所性膵組織が存在し,その周囲に限局して線維化と炎症細胞浸潤を認め,一方でそれ以外の憩室粘膜には炎症所見は認めなかったことから,異所性膵組織が膵炎をきたしたMeckel憩室炎と診断した.本疾患は現在までに海外含め2例しか報告されておらず,腹腔鏡下手術が施行された報告は1例もないため,文献的考察を加え報告する.
  • 橋本 好平, 水田 稔, 山本 澄治, 遠藤 出, 久保 雅俊, 宇高 徹総
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1484-1488
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は44歳,女性.1カ月前からの心窩部痛で当院内科受診.腹部CT像にて胃膵間に炎症波及を伴う腫瘤像,上部消化管内視鏡検査にて胃前庭部後壁に深い潰瘍性病変を認め,生検結果から良性胃潰瘍穿孔による限局性腹膜炎と考え保存加療で改善した.2年5カ月後に症状が再燃し,膿瘍の再燃,悪性腫瘍を疑い,待機的に開腹術を施行.術中所見では胃前庭部大弯から背側の壁に連続した硬化性腫瘤を認め,周囲から剥離可能であり腫瘍摘出術を行った.病理学的所見では膵との連続性を欠き慢性炎症像を伴う膵組織の診断で,異所性膵による膵炎の慢性膿瘍と考えられた.異所性膵は正常膵と連続性を欠き血行支配も異なる膵組織である.多くは無症状で経過するが,自験例のように症状を伴うもの,悪性化やinsulinomaが疑われるものは外科的治療対象となる場合がある.胃異所性膵に起因した慢性腹腔内膿瘍の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 富丸 慶人, 江口 英利, 丸橋 繁, 森 正樹, 土岐 祐一郎, 永野 浩昭
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1489-1493
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    57歳,男性.膵管内乳頭粘液性腫瘍に対して膵頭十二指腸切除術を施行した.術後膵瘻に対して保存的加療中,術後37日目に腹腔内ドレーンより血性排液を認めた.血管造影検査にて胃十二指腸動脈切離断端に仮性動脈瘤を認め,同部位からの出血と診断した.IVR治療を行う方針とし,肝動脈血流遮断下の状態で肝動脈血流が保たれていることを確認した後,総肝動脈から固有肝動脈にかけてコイル塞栓術を行った.その後,外来経過観察となっていたが,塞栓治療8カ月後に上腹部不快感を認め,当科外来を受診した.腹部造影CT検査にて左右肝動脈合流部に仮性動脈瘤を認め,仮性動脈瘤再発と診断した.同動脈瘤に対して,再度IVR治療を行う方針とした.経皮経肝的に仮性動脈瘤を直接穿刺し,ヒストアクリルおよびトロンビンを注入し,塞栓術を行った.再発に対するIVR治療後1年1カ月経過した現在,膵腫瘍の再発および再出血を認めず外来経過観察中である.
  • 大道 清彦, 坂本 裕彦, 高橋 遍, 網倉 克己, 朝山 雅子, 黒住 昌史, 田中 洋一
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1494-1498
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.膵体部癌に対し膵体尾部切除術・D2郭清を施行し,半年間,術後補助化学療法(gemcitabine)を行った.術後1年2カ月に肝S6単発の肝転移再発と診断した.S-1投与により,1年1カ月の間,stable diseaseを維持した肝転移巣が,腫瘍径増大による,progressive diseaseとなった.全身状態は良好で,他の化学療法の選択肢がないこと,他の肝転移巣および遠隔転移巣を認めないことから肝S6部分切除術を施行した.肝転移術後3年1カ月(原発巣術後5年5カ月,肝転移診断後4年3カ月)無再発生存中である.切除を治療のオプションに加えることにより,長期生存を得ている膵癌肝転移の1例を報告する.
  • 山田 美保子, 白井 量久, 西垣 英治, 廣瀬 友昭
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1499-1504
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    真性多血症(polycythemia vera,以下PV)を合併した患者の周術期には,血栓症と出血のリスクが増すことが報告されており慎重な管理が必要とされる.今回,われわれはPVに併発した膵頭部癌の1切除例を経験したので報告する.症例は,74歳の男性.20年前より,真性多血症の診断で近医にてハイドロキシウレア・アスピリンの内服治療中であり,14年前に脳梗塞の既往がある.定期受診時に,食後の上腹部痛の訴えと血液検査で血清アミラーゼ値が高値であったため,精査・腹部造影CTで膵頭部癌を認め,手術目的に当院へ転院となった.術前は瀉血を行い,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.血栓塞栓症予防のため手術室入室より弾性ストッキング,間欠的空気圧迫装置を使用し,術後5日間ガベキサートメシル酸塩を投与した.血栓症や出血の合併症なく術後28日目に軽快退院となった.
  • 酒井 剛, 北見 智恵, 河内 保之, 川原 聖佳子, 牧野 成人, 西村 淳
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1505-1508
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    遊走脾は比較的稀な疾患である.遊走脾の合併症として捻転による脾梗塞があるが脾静脈のみが閉塞することは稀である.われわれは,遊走脾捻転に伴う脾静脈閉塞により胃静脈瘤をきたした1例を経験したので報告する.症例は20歳,女性.生後5カ月より血小板減少を認め経過観察されており,精査で遊走脾と診断された.転居に伴い当院を受診した.腹部骨盤CTで骨盤内に腫大した脾臓を認め,脾静脈閉塞,伸展した胃脾間膜内に脾動脈とそれに螺旋状に併走する短胃静脈を認めた.脾静脈還流は,拡張した短胃静脈から胃静脈瘤を介し左胃静脈から門脈へ還流していた.上部消化管内視鏡検査では胃穹窿部に胃静脈瘤を認めた.腹腔鏡下脾臓摘出術を施行し,術後3カ月のCTで胃静脈瘤の消失を確認した.遊走脾捻転に胃静脈瘤を合併した報告は非常に稀である.本例は慢性的に脾臓が捻転し脾静脈が閉塞したため徐々に脾臓がうっ血し,脾腫および胃静脈瘤を生じたと考えられた.
  • 立岡 修治, 中村 登, 九玉 輝明, 本高 浩徐, 永田 彩子, 濵田 信男
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1509-1514
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は42歳,女性.2年前にS状結腸憩室炎を認め,保存的治療にて軽快した.今回,臍部の疼痛と発熱を主訴に来院.CTにて尿膜管膿瘍を認め,膀胱およびS状結腸との交通が疑われた.高度の炎症所見を認めたため,抗菌薬投与およびドレナージを施行し炎症を沈静化させた後,S状結腸,尿膜管および膀胱部分切除術を施行した.S状結腸憩室炎の穿通による尿膜管膿瘍は極めてまれであり,国内で自験例を含め4例,海外で11例に報告されているのみである.若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 米永 吉邦, 三瀬 昌宏, 矢田 善弘, 森本 智紀, 花木 宏治, 東出 俊一, 黒澤 学, 佐藤 滋高
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1515-1520
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性.2012年9月に大網脂肪織炎を発症,ステロイド加療で軽快した.ステロイドは2013年1月まで使用した.2月から腸閉塞を繰り返した.この間のCTにおいて,小腸の拡張の程度は変化がみられるものの小腸の位置関係に変化が見られないこと,下腹部の被包化されたような構造も同様に見られることより,癒着性の膜様構造物により小腸が被包化される被嚢性腹膜硬化症と診断した.腸閉塞を反復するため4月に開腹手術を行った.開腹すると小腸全体が白色調の肥厚した被膜に覆われ,下腹部では強固に後腹膜・膀胱に癒着しており,左上腹部では壁側腹膜と強固に癒着していた.肥厚した被膜は可及的に切除し,全小腸の癒着を剥離した.術後経過良好で,腸閉塞を再発することなく術後38日目に転院した.今回,大網脂肪織炎に続発した被嚢性腹膜硬化症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 唐橋 強, 吉水 信就, 関 みな子, 櫻井 孝志, 中島 顕一郎, 細田 洋一郎, 清水 健, 緒方 衝
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1521-1526
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.無痛性左上腹部腫瘤を主訴に近医受診,超音波検査で左上腹部に腫瘤を認め当院紹介となった.理学的所見では,左季肋部から側腹部に可動性不良な15cm大の腫瘤を触知した.検査後,大網腫瘍,膵体尾部発生の膵腫瘍,胃のGISTなどを疑い手術施行した.術中所見では,大網から発生したと考えられる15cm大の腫瘍で,胃・膵体尾部に浸潤が疑われたため胃全摘出術,膵体尾部脾合併切除にて腫瘍を摘出した.病理組織学的検査で未分化多形肉腫(undifferentiated pleomorphic sarcoma:以下UPS.旧WHO分類では炎症型の悪性線維性組織球腫に相当)と診断された.化学療法は施行せず経過観察していたが,術後4年で腹壁に再発を認め,再切除.術後8年で腹腔内再発し再々切除施行.術後9年の現在再発生存中である.大網原発のUPSは稀であり,また長期生存例の報告はない.文献的考察を加え報告する.
  • 中島 悠, 久留宮 康浩, 水野 敬輔, 世古口 英, 小林 聡, 桐山 宗泰
    2015 年 76 巻 6 号 p. 1527-1531
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/28
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,女性.2004年に他院にて腹腔内腫瘍に対し腫瘤摘出術を施行された.前医の病理診断は大網原発の骨外性粘液性軟骨肉腫であった.その後,通院を自己中断していた.2014年4月,腹部違和感を主訴に当院を受診し,腹部造影CTでは左上腹部に肝外側区域を圧排する最大径15cmの内部石灰化を伴う分葉状腫瘍と,肝S6に二つの腹膜結節を認めた.左上腹部の腫瘍より生検を行い,p63・c-kit・EMAの3種の免疫染色が陽性であり腺様嚢胞癌と診断した.前医で摘出された大網原発腫瘍の組織形,免疫染色ともに同一であったため,大網原発腫瘍の腹膜再発と診断した.手術は横隔膜合併肝外側区域切除・腹膜結節切除を施行し遺残なく腫瘍を切除した.
    大網原発の腺様嚢胞癌は検索しえた限り1例もなく,極めて稀な症例と考える.
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