2016 年 77 巻 1 号 p. 112-116
症例は66歳,男性.発熱,肛門部痛を主訴に前医に入院.CTで下部直腸腹側から右側へと続く直腸周囲膿瘍と診断され,当院転院予定となった.転院前日に多量の泥状排便あり症状改善した.当院のCTでは,膿瘍腔は縮小しており保存的加療を行った.下部消化管内視鏡検査では,S状結腸憩室は認められたが瘻孔は認めなかった.退院後,精査を行う予定としたが約1カ月後に発熱・肛門部痛が再度出現し,CTを施行した.前回同様に直腸周囲膿瘍を認め,経肛門的ドレナージを行った.症状改善後の精査でS状結腸憩室炎・直腸周囲膿瘍と診断し,S状結腸切除吻合術を施行した.術中所見では,S状結腸憩室の一部が直腸膀胱窩右側に強固に癒着し同部位が膿瘍形成の原因巣と考えられた.S状結腸憩室炎穿孔による膿瘍形成では直腸周囲膿瘍を形成することは稀であり,また経肛門的に自然排膿され症状改善を得た症例は極めて稀であり報告する.