2020 年 81 巻 11 号 p. 2238-2243
症例は76歳の男性で,倦怠感を主訴に当院を紹介受診した.上部消化管内視鏡検査にて胃角部小弯に2型腫瘍を認め,生検にて高分化型管状腺癌を認めた.腹部造影CTで,肝右葉に10cm大をはじめ多発する肝転移巣,および血液検査にて腫瘍出血による貧血の進行を認めたため,緩和目的に幽門側胃切除術を施行した.病理組織検査からpT4a,pN0,M1 (HEP),P0,CY0,Stage IVと診断した.術後,化学療法を施行したところ肝転移巣は嚢胞のみとなり,PET/CTからcomplete responseと考えられ,本人の希望で化学療法を中止し厳重に経過観察を行っているが,術後7年無増悪生存中である.多発肝転移以外の非治癒因子を伴わない症例において,幽門側胃切除術と化学療法により長期生存を得られる可能性と原発巣切除の意義が示唆された.