2025 年 86 巻 10 号 p. 1399-1403
症例は84歳,男性.近医で右鼠径部膨隆を認め,当院に紹介となった.精査の結果から右鼠径ヘルニアの診断となった.抗血小板薬を内服していたが術前休薬し,transabdominal preperitoneal approach(TAPP)にてヘルニア修復術を施行した.術後4日目に右下腹部の疼痛・腫脹を認めた.造影CTで右後腹膜から左右鼠径部の腹膜前腔にかけて広範囲に血腫形成および右上前腸骨棘内側に造影剤の漏出を認め,術後出血の診断で緊急止血術を行った.術中所見から深腸骨回旋動脈損傷からの動脈性出血と診断し,血腫除去および止血術を行った.術後は大腿外側の感覚障害を認めるも日常生活に支障はなく,再手術後11日目に退院した.TAPPの術後出血で止血術を要する症例は比較的稀である.本症例では腸管と腹膜の癒着の影響から初回手術時に外側の腹膜前腔の剥離層が腹壁側になったことが原因と考えられた.鼠径部の解剖を理解し剥離層に注意することがTAPPの術後出血予防において重要である.