【目的】鍼操作時の感染防止対策として、 抜鍼時にアルコール綿を隔てて押手を行う方法が提案されている。 しかし、 アルコール綿を使用しなければどれくらい血液汚染が広がり、 使用すればどのくらい汚染が抑えられるのかを直接観察した研究はこれまで行われていない。 そこで、 アルコール綿で鍼体を覆いながら抜鍼することによる感染リスク低減効果を検討するため、 血液に見立てた蛍光剤の付着状況を観察する実験を行った。
【方法】施術者役は、 全盲の理療科学生2名及び全盲の鍼師有資格者2名の計4名に依頼した。 施術者役に患者役の身体3ヶ所への単刺術、 5ヶ所への置鍼術を行うよう指示し、 置鍼した部位のうち1ヶ所に蛍光剤を塗布した。 このことは施術者役に告げず、 抜鍼時にアルコール綿で鍼体を覆うセッションAと覆わないセッションBを実施させ、 患者役の体表面及び施術者役の手掌に付着した蛍光剤をデジタルカメラで撮影して観察・評価した。
【結果】(1) 患者役の左前腕部において、 4名中3名がセッションAのみ蛍光剤の付着が見られなかった。 (2) 施術者役の押手における蛍光剤付着面積は4名中2名でセッションAの方が小さかった。 他の2名では両セッション間にほとんど差はみられなかった。 (3) 施術者役の刺手における蛍光剤付着面積は4名中3名でセッションAの方が小さかった。 他の1名では両セッション間にほとんど差はみられなかった。
【結論】抜鍼時に鍼体をアルコール綿で覆う操作は、 刺鍼部から出血した場合の血液汚染の広がりを抑える可能性が示唆された。