全日本鍼灸学会雑誌
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東京宣言特集
鍼灸領域における国内外の標準化の現況
国民への責任説明を果たすために
東郷 俊宏
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2012 年 62 巻 2 号 p. 114-124

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抄録

 今世紀に入ってから世界保健機関(World Health Organization: WHO)や国際標準化機構(International Standardization Organization: ISO)などの国際機関において、 伝統医学分野の国際標準策定の動きが活発になっている。 その背景には伝統医学、 とりわけ鍼灸医療が東アジアにとどまらず、 欧米やオーストラリアなどの国でグローバルに実践されていること、 またEBMの潮流の中でより客観性が高く、 信頼に足る臨床研究が求められるとともに、 用語やツボの位置、 臨床研究の方法論など、 様々な側面で国際的な標準が求められるようになったことがある。 また、 鍼灸治療で用いられる鍼 (needle) やもぐさ、 鍼電極低周波治療器などの機器についても、 安全性や品質に関する規格が求められるに至ったという事情がある。
 鍼灸医療の国際的な普及、 発展という文脈から考えるとき、 こうした流れは歓迎すべきことといえる。 しかし、 かかる国際標準策定の動きが活発化するもう一つの背景には、 国策の上で伝統医学を保護している中国や韓国の経済戦略があることも見逃してはならない。 2009年に 『東医宝鑑』 がユネスコ世界記録遺産 (Memory of the World) に認定されると、 翌2010年には中国が'Acupuncture and moxibustion of traditional Chinese medicine'をやはりユネスコの無形文化遺産(Intangible Cultural Heritage)とした。 また2009年には中国がISOへ中医学 (TCM) に関する専門委員会 (Technical Committee) の設立申請を行うなどの動きを見せており、 かかる動きは伝統医学の国際的なヘゲモニー争いの一環としての側面を持つ。
 本稿では、 1980年代に始まる伝統医学の国際標準化の経緯を、 主として21世紀に入ってから推進されているプロジェクトを中心にレビューしつつ、 国際標準化が国内における 「制度」、 「モノ」、 「ソフト」 の標準化の現況と深い関係があることを指摘し、 今後の国内外における伝統医学、 とりわけ鍼灸分野における標準化について考える基礎としたい。

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© 2012 社団法人 全日本鍼灸学会
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