全日本鍼灸学会雑誌
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62 巻, 2 号
全日本鍼灸学会雑誌
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巻頭言
東京宣言特集
  • 篠原 昭二, 福田 文彦, 小川 卓良, 山下 仁
    原稿種別: 東京宣言特集
    2012 年 62 巻 2 号 p. 98-113
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/06
    ジャーナル フリー
     本シンポジウムは、 この度の学術大会で行われる東京宣言採択に向けて、 企画されたものである。 従って、 宣言書の起草案の骨子となる(1)日本鍼灸の歴史(2)現状分析(3)将来と課題について、 起草案を作成した東京宣言起草委員会の委員の代表にシンポジストをお願いした。 (1)の日本鍼灸の歴史については、 本シンポジウムの前に行われる教育講演を受けて、 特に日本の鍼灸発展に関して重要な事項を簡潔に説明いただいた。 (2)の現状分析については、 研究面と臨床面とに分け、 お二人の先生に解説いただいた。 (3)の将来と課題は、 歴史と現状分析を受けて、 現状の問題点を明らかにした上で、 今後如何に日本の鍼灸を発展させていくかを提案していただいた。
     鍼灸医療に携わる諸兄にとっては、 現在の鍼灸の臨床、 研究並びに教育、 研修について少なからず課題をお持ちであると思料するところであるが、 個々の問題点は議論しても系統的且つ総括的に話し合う場は、 今までにはなかったかもしれない。 そこで、 このシンポジウムでは、 多くの方々から意見を頂戴した結果として、 歴史的事実や現状分析から課題となる問題点をできる限り抽出したものを報告した。 そして、 日本の鍼灸が将来、 今以上に広く汎用される療法となるためのひとつの方策を中心に検討し、 シンポジウムの結論とした。
  • 国民への責任説明を果たすために
    東郷 俊宏
    原稿種別: 東京宣言特集
    2012 年 62 巻 2 号 p. 114-124
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/06
    ジャーナル フリー
     今世紀に入ってから世界保健機関(World Health Organization: WHO)や国際標準化機構(International Standardization Organization: ISO)などの国際機関において、 伝統医学分野の国際標準策定の動きが活発になっている。 その背景には伝統医学、 とりわけ鍼灸医療が東アジアにとどまらず、 欧米やオーストラリアなどの国でグローバルに実践されていること、 またEBMの潮流の中でより客観性が高く、 信頼に足る臨床研究が求められるとともに、 用語やツボの位置、 臨床研究の方法論など、 様々な側面で国際的な標準が求められるようになったことがある。 また、 鍼灸治療で用いられる鍼 (needle) やもぐさ、 鍼電極低周波治療器などの機器についても、 安全性や品質に関する規格が求められるに至ったという事情がある。
     鍼灸医療の国際的な普及、 発展という文脈から考えるとき、 こうした流れは歓迎すべきことといえる。 しかし、 かかる国際標準策定の動きが活発化するもう一つの背景には、 国策の上で伝統医学を保護している中国や韓国の経済戦略があることも見逃してはならない。 2009年に 『東医宝鑑』 がユネスコ世界記録遺産 (Memory of the World) に認定されると、 翌2010年には中国が'Acupuncture and moxibustion of traditional Chinese medicine'をやはりユネスコの無形文化遺産(Intangible Cultural Heritage)とした。 また2009年には中国がISOへ中医学 (TCM) に関する専門委員会 (Technical Committee) の設立申請を行うなどの動きを見せており、 かかる動きは伝統医学の国際的なヘゲモニー争いの一環としての側面を持つ。
     本稿では、 1980年代に始まる伝統医学の国際標準化の経緯を、 主として21世紀に入ってから推進されているプロジェクトを中心にレビューしつつ、 国際標準化が国内における 「制度」、 「モノ」、 「ソフト」 の標準化の現況と深い関係があることを指摘し、 今後の国内外における伝統医学、 とりわけ鍼灸分野における標準化について考える基礎としたい。
  • 矢野 忠
    原稿種別: 東京宣言特集
    2012 年 62 巻 2 号 p. 125-139
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/06
    ジャーナル フリー
     日本鍼灸の特質は、 多様性にある。 その多様性は、 他国の知見と技術を積極的に取り込み、 日本の風土や文化に適合するように、 日本人のメンタリティをもって創意工夫されたことで形成されたものと考えられる。 こうした多様性をもつ日本鍼灸は、 その性質において様々な医療と補完、 あるいは統合を可能とすることから21世紀の医療に相応しい鍼灸といえよう。
     今、 世界はグローバル化の潮流の中で標準化が進行している。 それは医療の分野でも同様であり、 鍼灸においてもISOの諸課題に象徴されるように標準化が強く求められている。 しかし、 鍼灸の健全な発展をはかるには、 標準化の作業よりはまず各国の鍼灸の特色を相互に尊重し、 交流を図ることが重要であると考える。
     そのような意味において、 日本鍼灸の特質を国内外に向けて発信することは、 21世紀における日本および世界のよりよい医療に貢献するとともに鍼灸の未来を拓くことに繋がるものと確信している。 「東京宣言」 は、 まさにそのことを国内外に向けて宣言したものである。
報告
  • 中村 真通, 八亀 真由美, 齊藤 秀樹, 村居 眞琴
    原稿種別: 報告
    2012 年 62 巻 2 号 p. 140-147
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/06
    ジャーナル フリー
     【目的】鍼灸臨床では施術初期における症状の改善や治療に対する満足感は継続受療にもつながり大切となる。 その治療スタイルは多種多様であるが、 本研究では本校で行われている現代鍼灸 (現代)・経絡治療 (古典)・中医鍼灸 (中医) の治療スタイルに着目し、 治療スタイル別の直後効果や刺激の感じ方から施術の特徴を検討することを目的とした。
    【方法】本校、 鍼灸マッサージ教員養成科附属施術所に来院された患者に対し、 施術の前後に質問紙を177名に配布し、 169名から有効回答を得た。 施術者は教員養成科入学後、 約1年を経過した学生で、 担当する患者との係わりは平均1.2回と施術の初期の段階に実施した。 調査は質問紙形式で、 施術前に主訴や症状の程度などについて聞き、 施術後に症状の程度、 治療の満足度、 刺激の感じ方などを聞いて統計的な処理を行った。
    【結果】施術者が選択する治療スタイルは現代・古典・中医の順で多く、 腰下肢痛や関節痛は現代で、 頸肩腕痛は古典で、 内科疾患は古典や中医で治療を行う割合が多かった。 症状の改善、 治療の満足度はいずれの治療スタイルにおいても良好な結果であり、 3群において有意差は見られなかった。
    【考察】系統立てた理論と実技の学習を行うことで、 1年という期間でも直後効果を上げられることが示唆された。 鍼灸の治療スタイルは様々あるが、 治療スタイルにとらわれることなく臨床実践において、 患者に効果を実感してもらうことが大切だと考える。
    【結論】現代、 古典、 中医のいずれも症状の改善、 治療の満足度は良好な結果であり、 3群に有意差は見られなかった。
  • 田口 玲奈, 吉元 授, 今井 賢治, 北小路 博司
    原稿種別: 報告
    2012 年 62 巻 2 号 p. 148-156
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/06
    ジャーナル フリー
     【目的】鍼治療が月経周期に及ぼす影響を明らかにする目的で、 月経周期の異常がある女子大学生25名に鍼通電療法を行い、 月経周期および排卵回数、 高温期日数の変化を検討した。 また、 鍼通電療法によるこれらの月経異常の改善効果と治療前の肥満度分類の関連性を検討した。
    【方法】研究期間は7ヵ月間とし、 無治療期間 (治療前) と治療期間の各々3.5ヵ月を設定したAB法デザインで行った。 治療期間には1~2週間に1回、 鍼通電療法を行った。 対象者には研究期間を通して起床時の基礎体温を測定させ、 月経周期と1周期あたりの排卵回数および高温期日数を無治療期間 (治療前) と治療期間とで比較した。 さらに、 身長あたりの体重指数 (body mass index: BMI) を算出し、 治療期間中に月経周期および排卵回数、 高温期日数のいずれかが改善した例を改善群、 改善しなかった例を非改善群として、 鍼通電療法による改善効果と治療前の肥満度分類の関連性を検討した。
    【結果】無月経においては治療期間で月経が生じ、 頻発月経では月経周期が有意に延長し (P<0.05)、 正常周期となった。 月経周期の改善は治療期間に全体の30.0%で見られたが、 排卵回数の増加および高温期日数の延長を示したのはそれぞれ20.0%、 25.0%であった。 また、 鍼通電療法による改善効果とBMIの関連性はなかったが、 改善群では普通体重の割合が高く、 非改善群では低い傾向にあった。
    【考察および結語】鍼通電療法は卵胞発育に影響を与えた可能性があるが、 排卵生成と黄体機能の著明な回復までには至らなかったと考えられた。 月経周期の異常に対する鍼治療においては、 食習慣や運動状況等のライフスタイル、 体重のコントロールも視野に入れて行う必要があると考えられた。
  • 主観的・客観的評価による検証
    佐藤 万代, 山崎 翼, 上坂 梨沙, 音田 愛, 矢野 忠
    原稿種別: 報告
    2012 年 62 巻 2 号 p. 157-167
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/06
    ジャーナル フリー
     【目的】近年、 ストレスや生活の乱れなどが心身にさまざまな影響を及ぼし、 その結果、 肌状態の悪化を自覚する女性が増加している。 このような背景から、 局所的なケアだけでなく、 全身の健康増進を通して美容効果を得ようとする鍼灸治療が注目され、 「美容鍼灸」 という一つの分野として職域的に拡大している。
     本研究では、 肌の不調を自覚する健常成人女性に鍼治療もしくは指圧療法を行い、 肌状態への効果と介入方法の特性について検討を行った。
    【対象と方法】対象は肌の不調を自覚する健常成人女性14名とし、 鍼治療群7名と指圧療法群7名にランダム割付けした。 介入期間は4週間とし、 各群ともに週2回の介入を行った。 評価は介入期間の前後とし、 主観的評価として主観的健康感、 身体的・精神的疲労VAS、 ナーリス気分テスト、 肌状態アンケートを、 客観的評価として皮膚色調 (L*値、 a*値、 b*値)、 メラニン指数、 Hb指数、 HbO2指数、 角質細胞面積、 三次元画像変位量によるたるみ、 レプリカ (目尻・鼻唇溝) 解析によるシワ面積率、 および、 印象について評価を行った。 統計処理は、 2群の介入前比較には対応のないt検定を、 介入前後の群内比較には対応のあるt検定を用いた。
    【結果】客観的評価においては、 両群の背景因子には有意差は認められなかった。 鍼治療群では主観的なシワ、 たるみ、 肌状態の有意な改善、 客観的評価では左鼻唇溝のシワ面積率減少傾向を認めた。 指圧療法群では主観的な皮脂、 ナーリス気分テストの有意な改善、 客観的評価ではL*値、 HbO2指数の増加傾向、 b*値、 メラニン指数の低下傾向を認めた。
    【考察・結論】鍼治療はシワなどの形態的変化を、 指圧療法は皮膚色調を変化させる可能性が考えられた。 効果が異なる理由は不明だが、 介入の違いによるものと考えられた。 本研究は主観的、 客観的評価を用いて美容鍼灸の効果の一端を明らかにしたものであり、 意義のあるものと考えられた。
短報
  • 鍼灸外来診療マニュアル作成により減少した鍼関連のインシデントおよびアクシデント
    向井 雄高, 鈴木 聡, 水野 海騰, 藤枝 久世, 野瀬 由圭里, 佐々木 和郎, 丸山 一男
    原稿種別: 短報
    2012 年 62 巻 2 号 p. 168-174
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/06
    ジャーナル フリー
     【目的】平成22年4月より三重大学医学部附属病院 (以下、 三重大病院) 麻酔科において、 統合医療・鍼灸外来 (以下、 鍼灸外来) を開設した。 開設以降4月から11月の7カ月間で計8件のインシデント・アクシデントが発生した。 報告されたインシデント・アクシデントから問題点を再検討し、 鍼灸外来の安全性を向上させる対策として鍼灸外来診療マニュアル (以下、 マニュアル) を作成した。 マニュアル作成までの方法と実施以降のインシデント・アクシデント状況について報告する。
    【方法】平成22年11月1日の段階までに報告された内容を電子カルテシステムより収集し、 それをもとに再発防止のためのマニュアルを作成し、 三重大病院安全管理部へ承認申請を行い、 審査と査察を受けた。 マニュアル導入後のインシデント・アクシデント状況を、 電子カルテを用いて平成22年12月1日から平成23年3月31日までの4カ月間調査した。
    【結果】発生したインシデント・アクシデントはすべて鍼が関連する事象だった (落下鍼5件、 鍼の持ち帰り1件、 鍼の抜き忘れ2件)。 平成22年12月1日のマニュアル導入以降、 平成23年3月31日までの4カ月間、 インシデント・アクシデント報告はされていなかった。
    【考察】マニュアル導入以降、 インシデント・アクシデントが現在まで報告されていないことから、 マニュアルに基づく診療はインシデント・アクシデント発生を予防する可能性が示唆された。 作成したマニュアルは鍼の管理に重点を置いたマニュアルであり、 全体を見れば不十分である。 新たな問題が発生した際は、 再度マニュアルを見直し、 新たに改定していく必要がある。 これらの作業には、 チームを編成して対処していく必要があるが、 三重大病院には感染症対策や医療安全の専門家が所属する安全管理部がある為、 協力を仰ぎつつ安全な診療体系をつくり上げていく予定である。
    【結論】作成した安全対策マニュアルはインシデント・アクシデント発生の予防策になることが示唆された。
国際部報告
  • 中野 佐智子
    原稿種別: 国際部報告
    2012 年 62 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/06
    ジャーナル フリー
     アメリカで鍼灸師によるボランティア活動は活発に行われています。 アメリカ人による鍼灸師が米国内だけではなく、 海外でもボランティア活動をしています。 これらの団体はNPO法人であり、 派遣される鍼灸師は全てボランティアで、 自費でボランティア活動をしています。 アメリカでボランティア活動は何故するのか、 どこでしているのか。 ボランティアを通して何を学ぶのか。 私は今アメリカ、 ワシントン州シアトル市に在住しています。 私の知る限りの事柄とボランティア経験を紹介します。
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