全日本鍼灸学会雑誌
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原著
鍼刺激が長潜時反射に及ぼす影響
二本松 明工藤 匡川浪 勝弘笠井 正晴
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2020 年 70 巻 1 号 p. 26-37

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抄録

【目的】本研究は、 鍼刺激が運動反射へ及ぼす影響の作用点を検討する目的で、 鍼刺激が誘発筋電図の短潜時反射、 長潜時反射に及ぼす効果を調べた。 また鍼刺激による長潜時反射の変化と体性感覚誘発電位のN20の変化との関連、 鍼刺激による中枢運動神経伝導時間の変化についても検討した。 【対象及び方法】対象は健康成人16例 (男:11例、 女:5例、 年齢28.9±6.6歳、 上肢長 54.9 ±3.2cm、 全例右利き) とした。 実験はコントロール (鍼刺激なし)、 右合谷穴、 左合谷穴への鍼刺激の3実験を行った。 鍼刺激は、 合谷穴へ太さ0.18mmの鍼を深さ10mm刺入した。 右手関節正中神経にM波出現閾値の120%強度で電気刺激を行い、 右母指対立筋から短潜時及び長潜時反射を記録した。 短潜時反射 (潜時20~30ms程度) と長潜時反射 (潜時40~70ms程度) の解析項目は、 出現頻度、 振幅比とした。 体性感覚誘発電位は、 正中神経に電気刺激を行い導出し、 N20について、 基線からの振幅、 平均潜時を計測した。 誘発筋電図F波は、 右手関節正中神経にM波が出現する最大上刺激を行い、 右母指対立筋から記録した。 解析項目は平均潜時とした。 さらに、 長潜時反射、 N20、 F波、 M波の各平均潜時から中枢運動神経伝導速度を算出した。 【結果】短潜時反射の出現頻度は左の合谷穴への鍼刺激により抑制され、 振幅比は右合谷穴への鍼刺激により抑制された。 長潜時反射の出現頻度、 振幅比は左右の合谷穴への鍼刺激により抑制された。 また鍼刺激による長潜時反射の振幅比の変化とN20振幅の変化に相関関係を認め、 中枢運動神経伝導速度には鍼刺激の影響を認めなかった。 【考察及び結語】短潜時反射は脊髄性の電位であり、 長潜時反射は上脊髄性の中枢神経系を経由した運動反射である。 鍼刺激による運動神経反射抑制の作用点は、 脊髄性および上脊髄性の調節系の両者にあると考えられる。

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