全日本鍼灸学会雑誌
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症例報告
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する鍼治療の1症例
三谷 直哉加島 雅之
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キーワード: SARS-CoV-2, COVID-19, 鍼治療, 漢方薬, FiO2
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2022 年 72 巻 4 号 p. 250-254

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抄録

【緒言】急性期COVID-19に対しての明確な現代医学的治療法はなく薬物だけの治療では難渋するケースがある。 そこで本症例では、 東洋医学的な視点からCOVID-19の重症患者の回復期に鍼治療を行ったところ、 症状の改善がみられたので報告する。 【症例】53歳男性。 主訴は呼吸困難感。 現病歴:X年8月24日に呼吸困難感と発熱を認め、 8月27日より味覚障害を自覚した。 その後、 8月29日夕方に呼吸症状が増悪し、 8月31日に救急搬送された。 PCR検査は陽性で、 広範囲の肺炎像を認めたためCOVID-19の重症として入院となった。 【治療・経過】漢方薬と鍼治療を併用し、 鍼治療は呼吸の改善を目的に肺気虚・腎不納気に対する治療を中心に行った。 治療期間中に出現した胸痛や長期臥床による腰痛などに対しても併せて治療を行った。 鍼治療初回介入時には高流量酸素療法により吸入中酸素濃度 (fraction of inspiratoryoxygen: FiO2) 80%で体動困難であったが、 治療終了時には酸素療法は不要 (FiO2: 21%) となり独歩で退院した。 【考察】本症例を通して、 COVID-19急性期の呼吸症状の改善に対して鍼治療が有効である可能性が示唆された。 本症例では随証選穴での治療により酸素需要は改善されたが、 吸気時に胸部が膨らまないような症状が残った。 その症状は足の少陰腎経の走行上にあたり、 胸部経穴の接経法を行うことで肉眼的に胸郭の動きが改善され、 経皮的動脈血酸素飽和度 (SpO2) の改善もみられた。  これらから、 COVID-19に対する鍼治療は急性期と慢性期を問わず有効であり、 積極的に介入する余地があるのではないだろうか。

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