全日本鍼灸学会雑誌
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72 巻, 4 号
全日本鍼灸学会雑誌
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
巻頭言
会頭講演
  • -医療機関各科での鍼灸治療-
    坂井 友実
    2022 年 72 巻 4 号 p. 229-236
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/05/19
    ジャーナル フリー

    著者はこれまで東大医学部附属病院麻酔科ペインクリニックをはじめとして、 同大学の物療内科 (現、 アレルギー・リウマチ内科)、 老年病科や財務省印刷局東京病院東洋医学センター、 精神科・内科のクリニック、 統合医療施設等で鍼灸の臨床経験を積むことができた。 これらの医療分野での鍼灸臨床と研究の経験から、 現代医療の中に鍼灸を位置づけるには、 現代医学的視点から疾患や症状を捉え、 病態を把握し、 病態に基づいた治療を行い、 鍼灸の有効性、 有用性を科学的根拠に基づいて評価、 検討することが重要と考える。  鍼灸の特徴は①個々の患者に応じた治療が可能である、 ②診断がつかなくても治療ができる、 ③生体にとって有害となる副作用が少ない、 ④病変部近傍への組織選択的なアプローチが可能である、 ⑤非薬物療法のため、 現代医学的な治療 (薬物療法や心理療法など) との併用が可能であるなどがあげられる。  これらの特徴を持つ鍼灸治療は、 現代医療の中で医療手段の一つとして有用となり得る。 さらに、 鍼灸師に求められるのは医師をはじめとした医療従事者と共通の認識をもって連携し、 信頼される力量をもつことと考える。

基調講演
  • ー鍼灸の本当のチカラとはー
    矢野 忠
    2022 年 72 巻 4 号 p. 237-249
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/05/19
    ジャーナル フリー

    現在、 我国の疾病構造は、 生活習慣病、 高齢者疾患が中心であるが、 これに加えてストレス病、 うつ病を含めた心の病が増えている。 この状況は今後さらに深刻化することが予測されることから、 これまで以上に健康維持・増進、 予防、 未病治、 ケアへの取り組みが求められている。  このように変わりゆく疾病構造と社会の動向を見据えると、 医療保障だけでは医療の諸問題を解決することに限界がある。 このことから健康保障を含めた医療システムへの転換として社会モデルをも組み込んだ医療の推進に期待がよせられている。  では、 そのような医療の動向において、 鍼灸医療はどうのように貢献することが出来るのかである。 鍼灸医療は、 そもそも 「未病治」 を最高の医療行動目標とし、 「養生」 による健康維持・増進を推奨してきた。 その治効原理は、 人体の自己制御システム系の最大活用であり、 いわば人体の再生可能エネルギーを用いた自然治癒力による。 このチカラを健康維持・増進、 予防、 未病治、 治療、 ケアそれぞれの目的に応じて発揮させようとしてきたのが鍼灸医療である。 すなわち、 社会モデルから医療モデルまでの広範囲な医療を実践してきたのである。 しかし、 已病治はそう簡単ではないとし、 最も重要視したのが健康維持・増進と未病治であった。 このことが、 今、 改めて評価されようとしている。  これからの社会が必要とする、 社会から必要とされる医療が、 社会モデルをも組み込んだ医療とすれば、 鍼灸医療は大いに貢献することができる。 このように鍼灸医療は時代を超えて変わることのない医療の要諦に根差した素晴らしい医療であり、 その役割は現在も、 未来においても健康維持・増進と未病治、 そしてケアに尽きる。

症例報告
  • 三谷 直哉, 加島 雅之
    2022 年 72 巻 4 号 p. 250-254
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/05/19
    ジャーナル フリー

    【緒言】急性期COVID-19に対しての明確な現代医学的治療法はなく薬物だけの治療では難渋するケースがある。 そこで本症例では、 東洋医学的な視点からCOVID-19の重症患者の回復期に鍼治療を行ったところ、 症状の改善がみられたので報告する。 【症例】53歳男性。 主訴は呼吸困難感。 現病歴:X年8月24日に呼吸困難感と発熱を認め、 8月27日より味覚障害を自覚した。 その後、 8月29日夕方に呼吸症状が増悪し、 8月31日に救急搬送された。 PCR検査は陽性で、 広範囲の肺炎像を認めたためCOVID-19の重症として入院となった。 【治療・経過】漢方薬と鍼治療を併用し、 鍼治療は呼吸の改善を目的に肺気虚・腎不納気に対する治療を中心に行った。 治療期間中に出現した胸痛や長期臥床による腰痛などに対しても併せて治療を行った。 鍼治療初回介入時には高流量酸素療法により吸入中酸素濃度 (fraction of inspiratoryoxygen: FiO2) 80%で体動困難であったが、 治療終了時には酸素療法は不要 (FiO2: 21%) となり独歩で退院した。 【考察】本症例を通して、 COVID-19急性期の呼吸症状の改善に対して鍼治療が有効である可能性が示唆された。 本症例では随証選穴での治療により酸素需要は改善されたが、 吸気時に胸部が膨らまないような症状が残った。 その症状は足の少陰腎経の走行上にあたり、 胸部経穴の接経法を行うことで肉眼的に胸郭の動きが改善され、 経皮的動脈血酸素飽和度 (SpO2) の改善もみられた。  これらから、 COVID-19に対する鍼治療は急性期と慢性期を問わず有効であり、 積極的に介入する余地があるのではないだろうか。

臨床体験レポート
  • -医療連携における鍼灸師の役割と心構えについて-
    石山 すみれ, 成島 朋美, 鮎澤 聡
    2022 年 72 巻 4 号 p. 255-260
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/05/19
    ジャーナル フリー

    【緒言】鍼灸施術中及び施術前後に観察された症状について、 症状が反復することから医師に診察を依頼したところ、 左中大脳動脈狭窄に伴う一過性脳虚血発作と診断され、 内服治療により新規脳梗塞の発症に至らずに事なきを得た症例を経験した。 早期発見における医療連携の重要性と、 連携における鍼灸師の役割と心構えについて考察する。 【症例】70歳代、 男性。 主訴は両肩痛。 X-1年7月、 自宅で転倒し、 左半身を強打した。 意識消失はないが、 左半身の痛みがあり、 同日総合病院の救急を受診した。 レントゲン所見に異常はなかった。 両肩痛が残存したため、 X年2月当院整形外科を受診、 両肩関節周囲炎と診断され、 鍼治療開始となった。 【経過】鍼治療は肩と肩に50Hz、 15分の低周波鍼通電療法、 回旋腱板周囲筋に対し緊張緩和を目的に週一回実施した。 初診時から3診目までで、 ①一過性に言葉が出にくくなる、 ②辻褄の合わない会話がある、 ③物がみつからない、 などの症状が認められ、 施術者から当院脳神経外科の受診を勧めた。 鍼灸開始から21日目に頭部magnetic resonance imaging、 magnetic resonance angiographyが撮影され、 左傍側脳室領域の陳旧性脳梗塞および左中大脳動脈水平部の狭窄が認められた。 single photon emission computed tomographyでは左中大脳動脈領域の血流低下を認めた。 アスピリンの内服が開始され、 その後症状の発現は認められていない。 【考察】術者が観察した症状は一過性脳虚血発作による失語症と考えられた。 長時間患者と接している鍼灸師は患者の状態の変化に気がつく場面も多いと考えられ、 医療連携の中での治療において一定の役割をもつと思われた。 また、 良好な医療連携に加えて、 鍼灸師自らが疾患に関する知識を有していることも大切である。

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