全日本鍼灸学会雑誌
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症例報告
初診時にKeele STarT Back Screening Toolで層別化した慢性腰痛患者に対する鍼・柴朴湯併用治療の1症例報告
堀部 豪溝井 令一小内 愛井畑 真太朗山口 智
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キーワード: 鍼治療, 柴朴湯, 慢性腰痛
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2023 年 73 巻 3 号 p. 186-191

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抄録

腰痛の慢性化には心理社会的要因などが関わる。 しかし、 腰痛治療に際して心理社会的要因を評価し、 かつ鍼治療と漢方薬治療を併用した報告は我々が渉猟した限りない。 今回、 右殿下肢痛を訴えた慢性腰痛患者の心理的要因を評価し、 鍼治療と柴朴湯を投与した結果、 Quality of Life (QOL) が改善したので報告する。 症例:38歳女性。 主訴 右殿下肢痛。 X-1年8月に主訴を発症。 近医整形外科を受診し腰椎椎間板ヘルニアと診断された。 同年11月にふらつきを自覚し近医精神科を受診、 適応障害と診断されブロマゼパムが処方された。 X年2月に当院整形外科で坐骨神経痛と診断された。 ブロマゼパムの減薬を希望し3月に当院精神科を受診、 4月にうつ病の可能性を指摘された。 患者が腰痛に対する鍼治療を希望し、 同月に当科を受診した。 神経学的所見・整形外科的徒手検査は異常無く、 梅核気・胸脇苦満を認めた。 病態を非特異的腰痛と捉え、 鍼治療を右のL2/3直側、 仙骨外縁部、 梨状筋相当部、 殷門 (BL37)、 委中 (BL40) に実施した。 また、 漢方医学的には気滞と捉え柴朴湯を投与した。 所見・経過:Keele STarT Back Screening Tool はMedium risk、 Roland-Morris Disability Questionnaire (RDQ)は16点、 偏差得点1.22点であった。 2回目の鍼治療の際に、 左右の期門 (LR14)、 内関 (PC6)、 太衝(LR3)と巨闕(CV14)への刺鍼を追加した。 3回目の鍼治療後にRDQ 2点、 偏差得点50.14点に改善した。 考察:鍼治療と柴朴湯による鎮痛機序の賦活や精神症状への作用が推察され、 その結果症状が軽減し、 QOLが改善したと考える。 鍼治療と柴朴湯は、 心理的要因を抱え、 殿下肢痛を有する慢性腰痛患者に対して有用である可能性が示唆された。

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