2026 年 76 巻 1 号 p. 30-37
【緒言】嗅覚障害の病態は、 現在でも明らかになっていないことが多くその診断方法と治療法は十分に確立していない。 また原因不明の嗅覚障害は、 難治性で予後不良の場合が多いとされている。 今回、 長期化した原因不明の嗅覚障害に対して北里方式経絡治療と迎香穴などに知熱灸を行い症状の改善を嗅覚同定能力研究用カードキットで評価し得た一例を経験したので報告する。 【症例】68歳女性。 主訴は嗅覚障害。 X-20年に、 嗅覚低下を自覚し、 鼻中隔弯曲症に対する手術後に嗅覚が回復した。 しかしX-1年7月頃から食べ物のにおいがわからなくなり、 耳鼻科にて嗅覚障害と診断された。 ベタメタゾンリン酸エステル点鼻やフルチカゾンフランカルボン酸点鼻や小青竜湯エキスが処方されたが、 効果がみられないため、 当センターを受診した。 【治療・経過】嗅覚障害に対し、 鍼灸治療を週に一回行い、 OEを用いて評価した。 脈診に基づき北里方式経絡治療の本治法と共通基本穴に加え、 標治法として迎香 (LI20)、 合谷 (LI4)、 解渓 (ST41) に置鍼、 志室 (BL52) に灸頭鍼を行った。 3診目のOEは12点満点中4点。 上迎香 (Ex-HN8)・印堂 (Ex-HN3)・神庭 (GV24) に知熱灸を3壮行った。 6診目のOEは5点。 迎香・印堂・神庭・合谷・解渓に置鍼、 知熱灸5壮をしたところ治療室のもぐさのにおいがわかった。 11診目のOEは6点となり、 患者は前回よりもOEを開いた瞬間からにおいがわかったと喜んでいた。 患者の希望により鍼灸治療を終了した。 【考察・結論】長期間経過した原因不明の嗅覚障害に対して、 北里方式経絡治療と迎香穴などに知熱灸を行い、 その評価に嗅覚同定能力研究用カードキットを用いて改善を客観的に捉えられた症例を経験した。 今後はさらに安全な電気温灸器の使用などにて、 OEなどの客観的な臨床判定を取り入れつつ、 鍼灸治療の症例を集積していくことが望まれる。