全日本鍼灸学会雑誌
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体温調節機能の異常に対する鍼治療の検討
井島 晴彦黒野 保三
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1999 年 49 巻 2 号 p. 293-297

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抄録

この患者は20年前に結核を発症し、治癒した後に体感温度や体温調節機能の異常を感じるようになった。しかし生活に支障のない程度であったし、営業の仕事が忙しかったこともあって、特に治療しないまま60歳の定年を迎えた。その後仕事を完全に止めたため、生活のリズムが急変した。それが心理社会的ストレスとなり、自律神経機能に変調をきたし体感温度や体温調節機能の異常からくる症状を悪化させたと思われる。さらにその苦痛と、病院での精密検査でも原因が解らず治療もされないことからくる不安から種々の不定愁訴を発症したものと思われる。従って、ホメオスターシスの賦活と症状の改善を目的とした鍼治療を行うこととした。
外部環境の変化に応じた体温調節に、自律神経系の果たす役割は大きい。
今回、定年退職という心理社会的ストレスにより自律神経に変調をきたし、体温調節機能の異常を主訴として、種々の不定愁訴を訴えていると考えられる患者に対し、 (社) 全日本鍼灸学会研究委員会不定愁訴班不定愁訴カルテを使用し鍼治療を行ったところ、効果判定は比較的有効であった。その後の経過観察からも鍼治療の有効性を客観的に見出すことができた。また、体温調節に関するデータとして基礎体温を検討したところ、その変動がやや安定傾向を示しそれに伴う症状も軽減した。

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