全日本鍼灸学会雑誌
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腰痛に対する低周波鍼通電療法と経皮的電気刺激法の多施設ランダム化比較試験
坂井 友実津谷 喜一郎津嘉山 洋中村 辰三池内 隆治川本 正純粕谷 大智
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2001 年 51 巻 2 号 p. 175-184

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抄録

【背景】本邦での鍼に関するランダム化比較試験の試みは数少なく、対照群に鍼治療以外の治療法をおいた研究はほとんどない。本邦において、医療制度の中に鍼灸が位置付いてゆくためには、質の高い臨床研究の結果が求められている。今回の臨床試験はこのような状況を踏まえ鍼を受療することの多い「腰痛症」を対象として行われた。
【目的】「腰痛症」に対する低周波鍼通電療法の有効性および安全性を経皮的電気刺激法を対照としたランダム化比較試験により検討する。本試験は1995年9月から1996年6月にかけて瀬踏み的になされた第1期の研究を引き継ぐ第2期に相当する探索的なもので, 第3期の確認的な試験へ向けてのデータ収集の意味を持つ。
【対象および方法】下肢症状がなく、発症から2週間以上経過した腰痛患者を対象に低周波鍼通電療法 (A群) と経皮的電気刺激法 (T群) の多施設ランダム化比較試験とした。観察期間は2週間、治療回数は5回とした。通電は各群とも1 Hzで15分間行った。
【結果】目標症例数の80例に対して71例の応募者があり、68例が封筒法によりA群とT群に割付けられ、最終的にはA群の31例とT群の33例が解析の対象となった。背景因子として、年齢、罹病期間などには両群間に有意差はみられなかったが、性別、鍼治療経験の有無、経皮的電気刺激法の経験の有無には有意差がみられた。疼痛スケール (以下「VAS」とする) は最終時でA群は5.3±3.0に、T群は5.9±3.4に軽減した。また、主要評価項目であるVASをもとにした痛み改善度の効果判定では、A群は13/31例 (41.9%) に改善がみられ、T群では10/33例 (30.3%) に改善がみられた。さらに、副次的評価項目である日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準 (以下「JOAスコア」とする) は初診時14.5±3.0点、T群は15.0±2.8点であったが、最終時では15.9±2.0点と15.8±2.6点であった。しかし、A群とT群の両群問では、VAS及びVASをもとにした痛み改善度JOAスコアにおいて統計学的な有意差はみられなかった。
【考察】プロトコールに沿ってデータの収集が行われたことは中央委員会の設立によるところが大きいと考える。目標症例数に達しなかったことは、臨床試験に対する患者の理解が低いことや参加施設のおかれている立地条件が考えられるが、患者募集の仕方にも工夫をしてみる必要があると思われる。また、鍼の効果を立証していくためには介入の方法や評価項目などについて検討していく必要があると思われた。
【結論】腰痛症に対するA群とT群との間には有効性の差はみられなかった。第3期へ向けての基礎的データが収集された。

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