抄録
70歳以上の高齢者41例について,術前の精神状態を把握することにより,術後精神障害の発生を予測しうるかどうか検討した.術前の精神状態は,痴呆の有無,日常生活能(ADL)および精神症状の有無という3点で評価した.痴呆の判定は長谷川式簡易知能評価スケールを用いた.
41例のうち術後精神障害を起こしたのは8例(A群),起こさなかったのは33例(B群)であった.A群はB群に比し術前より1)長谷川式スケールで中等度以上の異常があり,2)精神症状がみられたり,3) ADLが障害されている症例が有意に多くみられた.術前よりこれらの症状がみられる症例では,術後精神障害の予防にいっそうの注意が必要である.年齢,性別,術前麻酔リスク,麻酔法および麻酔薬は術後精神障害の発生と関連がみられなかった.