全身麻酔下,セメントレス人工股関節全置換術中に脂肪塞栓症候群(FES)を発症し,意識障害を残した症例を報告した.術中は一過性のSpO2低下を除きバイタルサインはきわめて安定しており,発症にまったく気がつかなかった.手術終了頃よりETCO2とPaCO2の解離がみられ,覚醒せず中枢神経症状を呈したためFESを疑った.診断は術後の臨床および検査所見からなされたが,特に頭部MRIは脳内所見の検出に有用であった.本症例はDICを合併し,全身状態が安定したところで高圧酸素療法を行なったが,10ヵ月経過した現在も意識障害が続いている.麻酔中,呼吸・循環動態に著しい変化が認められなくても,重症FESが発症していることがある.