日本臨床麻酔学会誌
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筋弛緩作用が一定になるよう持続静注した後に,筋弛緩薬投与を中止した時の作用回復のシミュレーション
パンクロニウム,ベクロニウム,ロクロニウムの比較
矢島 直津高 省三長田 理田上 恵花岡 一雄
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1999 年 19 巻 10 号 p. 601-608

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抄録

要旨 3種類の非脱分極性筋弛緩薬:パンクロニウム,ベクロニウム及びロクロニウムについて,投与速度をPID制御により変化させて,一定の筋弛緩率(90%, 99%)を維持し,任意の時間(投与持続時間)で中止した後の作用回復時間をシミュレーションにより求めた.シミュレーションに用いたPharmacokinetic parametersは既存のものを使用したが,Pharmacodynamic parametersは,1MAC以下の揮発性麻酔薬を用いた自験例のデータを用いて求めたものを使用した.ロクロニウムのcontext-sensitive half-timeはパンクロニウムよりベクロニウムのそれに近いが,持続時間を変化させたときの99~50%回復時間の曲線はベクロニウムよりパンクロニウムに近い傾向を示していた.パンクロニウム,ベクロニウム,ロクロニウムのすべてで投与持続時間360分後の99~50%回復時間はなお増加傾向を示していた.90~50%回復時間及び90~75%回復時間は,ベクロニウムとロクロニウムでは,投与持続時間が120分以後に一定になったが,パンクロニウムは240分まで増加傾向にあった.E%の筋弛緩率を維持して定常状態になったときの持続投与速度をkss(E)とすると,パンクロニウムとベクロニウムではkss(99)/kss(90)=1.5, kss(90)/kss(75)=1.2であったのに対してロクロニウムではkss(99)/kss(90)=2.0, kss(90)/kss(75)=1.4となった.より深い筋弛緩状態を維持するにはパンクロニウムやペクロニウムに比して,ロクロニウムではより大きく投与速度を増加させる必要があることがわかった.非脱分極性筋弛緩薬(パンクロニウム,ベクロニウム,ロクロニウム)では,持続投与後の回復時間を推定するのにcontext-sensitivehalf-timeは役立たないことが判明した.非脱分極性筋弛緩薬ではPharmacodynamicの非線形性が強いこと,いいかえると用量反応曲線の接線の傾きが大きく変化することがその主因である.

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