抄録
ダウン症で精神発育遅延を認める52歳女性の白内障手術を,全身麻酔下に施行した.手術室入室時よりSpO2が93%とやや低値だった.気管挿管は容易であったが,挿管後気管内から血液を混じた喀痰が吸引された.術中は,気道内圧の上昇,皮下の異常膨隆,循環変動,チアノーゼの発現等は認めず,術後覚醒も良好であった.患者は手術終了210分後より胸部痛を訴え,約6時間後に,頸部から前胸部にかけての腫脹を呈した.単純胸部X線撮影で,縦隔気腫及び皮下気腫と診断された.縦隔気腫が生じた機序は不明であるが,高齢のダウン症患者は組織の脆弱性を有し,これが発症に関係した可能性が示唆された.