抄録
72歳,女性が韓国旅行中に転倒し,右大腿骨頸部を骨折した.右股関節以下をギプス固定され,翌日,車で約5時間移動後,航空機を利用して帰国した.帰国2日後,人工骨頭置換術が施行された.術中に,経皮的酸素飽和度の低下,血圧低下,意識消失を認め,肺血栓塞栓症が疑われた.術後肺動脈造影で両肺動脈に多発性の血栓像を認め,確定診断した.ヘパリンによる抗凝固療法に加え,再塞栓の予防目的に一時留置型下大静脈フィルタを挿入し,後遺症を残さず治療可能であった.下肢の深部静脈血栓症を起こしやすい状態にある症例では,肺血栓塞栓症の発生を念頭においた術前検査と予防が必要である.