日本臨床細胞学会雑誌
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特集 <甲状腺細胞診―さらなる発展へ向けての展望―>
甲状腺細胞診報告様式ベセスダシステムの評価
坂本 穆彦
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2021 年 60 巻 3 号 p. 187-191

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抄録

甲状腺細胞診報告様式としてはベセスダシステムが国際的に用いられているが, わが国の甲状腺腫瘍診療にとっては必ずしもすべてを容認できる内容ではない. 特に現行のベセスダシステムは, 米国の医療事情を色濃く反映した WHO 甲状腺腫瘍組織分類の考えをそのまま踏襲している. すなわち, 米国では細胞診で悪性と判定されると, 標準的治療として甲状腺全摘と追加として放射線療法がすすめられる. この中には過剰手術症例が含まれているとされ, それを避けるために WHO 分類に新たに境界病変が設けられた. ところが, わが国では過剰治療は問題になっていない. さらに, 細胞診では境界病変の判定は困難である. このような医療事情を背景にして 「甲状腺癌取扱い規約」 第 8 版 (2019 年) では WHO 分類の境界病変は採用されなかった. それに連動してベセスダシステムの説明内容も, 境界病変に関する事項は同様に扱われることになった. 国際的に広く流布しているというだけの理由で盲目的にベセスダシステムの記載を受け入れるのではなく, わが国の医療の実情にはどれが最もふさわしいかという観点からの考慮は重要である.

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