2022 年 61 巻 1 号 p. 22-28
背景:精索原発脱分化型脂肪肉腫はまれな腫瘍で,これまでその細胞像についての詳細な国内報告はみられない.
症例:71 歳,男性.左陰囊の無痛性腫大を主訴に当院を受診し,傍精巣腫瘍の診断にて左高位精巣摘除術を施行した.肉眼的には精索に 8.5×6.0 cm 大の境界明瞭な充実性腫瘤を認めた.腫瘍の割面は淡黄色充実調でモザイク状に壊死が観察された.捺印細胞診標本では多数の小型リンパ球を背景に,大型異型細胞が孤在性や結合性の緩いシート状に出現していた.核の過分葉を示す異型細胞も多数みられた.集塊内に取り込まれた多数の CD8 陽性リンパ球が異型細胞を取り囲む像がしばしば観察され,これらは腫瘍組織浸潤リンパ球と考えられた.異型脂肪芽細胞は確認されなかった.腫瘍組織の免疫染色にて異型細胞は MDM2 に強陽性を示し,FISH にて MDM2 遺伝子領域(12q13-15)の増幅を認め,脱分化型脂肪肉腫と診断した.
結論:まれな精索原発脱分化型脂肪肉腫の細胞像を検討した.脱分化型脂肪肉腫の予後は不良とされているが,術後長期間に再発を認めておらず,腫瘍組織浸潤リンパ球の免疫応答が長期生存に寄与した可能性が示唆された.