日本臨床細胞学会雑誌
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61 巻, 1 号
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原著
  • 髙瀬 頼妃呼, 内藤 嘉紀, 河原 明彦, 貞嶋 栄司, 安倍 秀幸, 村田 和也, 牧野 諒央, 福満 千容, 篠田 由佳子, 岡部 義信 ...
    2022 年 61 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    目的:本検討は膵臓の超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration cytology:EUS-FNAC)で作製した Rapid on-site evaluation(ROSE)標本,従来法のパパニコロウ(Pap.)標本,液状化検体細胞診(Sure-Path 法 liquid-based cytology:SP-LBC)標本における細胞形態と SP-LBC の診断精度について検討した.

    方法:2015 年から 2017 年の間に膵 EUS-FNAC が実施された 166 例を対象とした.膵癌 30 例の ROSE 標本,Pap. 標本および SP-LBC 標本を用いて画像解析と腫瘍細胞量を比較した.また,166 例を用いて EUS-FNAC における SP-LBC 標本の併用効果を検討した.

    成績:膵癌細胞はすべての標本で N/C 比大,核不整や明瞭な核小体の細胞所見を示していた.30 例の画像解析において,腫瘍細胞の核面積は,ROSE 標本および Pap. 標本に比べ SP-LBC 標本で小型であったが(p<0.001),平均核アスペクト比(針状比)は,それぞれの標本間において明らかな違いを認めなかった(p=0.291).さらに,SP-LBC 標本の腫瘍細胞量は,ROSE 標本に比べ有意に多かった(p<0.001).166 例の後方視的な診断において,SP-LBC 標本の診断精度は,圧挫標本(ROSE 標本と Pap. 標本)に比べ向上した(p<0.001).

    結論:圧挫標本と SP-LBC 標本の細胞の大きさは,処理法により異なっていた.しかしながら SP-LBC 標本の腫瘍回収量は圧挫標本に比べ豊富であり,SP-LBC 標本の併用は誤陰性診断を減らす効果を示す.

症例
  • 安村 奈緒子, 倉岡 和矢, 菅 亜里紗, 藤澤 宏樹, 齊藤 彰久, 安井 大介, 重松 英朗, 谷山 清己
    2022 年 61 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    背景:両側乳房肉腫は,病因が不明なまれな悪性腫瘍である.今回われわれは,多形型脂肪肉腫成分を含む両側乳腺腫瘍の 1 例を経験したので報告する.

    症例:30 歳代,女性.4 ヵ月前より両側乳房の腫脹を自覚していた.CT 検査にて,両側乳腺に巨大腫瘍と肺や骨への多発転移を認めた.葉状腫瘍が疑われ,穿刺吸引細胞診および針生検が施行された.

    細胞診塗抹標本では中~大型で,紡錘形~奇怪形等多彩な細胞形を呈する異型細胞が孤在性や小集塊状に比較的多数出現していた.背景や異型細胞の胞体内に多数の小空胞を認め,それらはズダンⅣ染色陽性であった.免疫細胞化学的に,Vimentin びまん性陽性,S100a 一部陽性,Desmin/CD34/CD68 陰性であり,多形型脂肪肉腫と報告した.生検標本であるため,悪性葉状腫瘍や化生癌の多形型脂肪肉腫様分化の否定は困難であった.

    両側乳房針生検標本では,多形性を伴う異型肉腫組織の中に脂肪芽細胞が散見され,乳管癌や葉状腫瘍の像は認めなかった.多形型脂肪肉腫と報告したが,悪性葉状腫瘍や紡錘細胞癌の多形型脂肪肉腫様分化の否定は困難であった.

    結論:多形型脂肪肉腫成分を含む両側乳腺腫瘍の 1 例を経験した.

  • 倉澤 佳奈, 藤中 浩樹, 岩瀬 大輔, 立石 愛美, 高城 理香, 西尾 祥邦, 佐々木 志保, 島津 宏樹, 伏見 博彰
    2022 年 61 巻 1 号 p. 18-21
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    背景:多形腺腫は唾液腺に好発する最も頻度の高い良性腫瘍だが,乳腺原発のものはきわめてまれである.今回われわれは乳腺に生じた多形腺腫の 1 例を経験したため,細胞像を中心に報告する.

    症例:80 歳代,女性.胸部 X 線にて左乳房に石灰化を指摘され,左 EC 領域に 2.5 cm 大の弾性のある腫瘤を触知した.穿刺吸引細胞診(FNA)を施行し,多量の粘液とともに異型の乏しい上皮細胞集塊が多数出現していたため,mucocele-like tumor または粘液癌疑いとなり,摘出生検がなされ,摘出標本にて捺印細胞診を行った.その結果ギムザ染色にて異染性を示す多量の粘液とともに多彩な形態を呈する筋上皮細胞や軟骨基質成分も認められ,多形腺腫が疑われた.摘出腫瘤の割面は白色充実性で,一部に透明感がみられた.組織診では腺組織および形質細胞様筋上皮細胞の背景に粘液性間質がみられ,上皮および筋上皮様の細胞から軟骨成分に移行する像がみられたため,多形腺腫と診断された.

    結論:乳腺の細胞診にて強い異染性を伴う粘液や多彩な筋上皮細胞がみられた場合,多形腺腫の可能性も念頭におくことが必要である.

  • 安達 純世, 花見 恭太, 富居 一範, 山﨑 一人
    2022 年 61 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    背景:精索原発脱分化型脂肪肉腫はまれな腫瘍で,これまでその細胞像についての詳細な国内報告はみられない.

    症例:71 歳,男性.左陰囊の無痛性腫大を主訴に当院を受診し,傍精巣腫瘍の診断にて左高位精巣摘除術を施行した.肉眼的には精索に 8.5×6.0 cm 大の境界明瞭な充実性腫瘤を認めた.腫瘍の割面は淡黄色充実調でモザイク状に壊死が観察された.捺印細胞診標本では多数の小型リンパ球を背景に,大型異型細胞が孤在性や結合性の緩いシート状に出現していた.核の過分葉を示す異型細胞も多数みられた.集塊内に取り込まれた多数の CD8 陽性リンパ球が異型細胞を取り囲む像がしばしば観察され,これらは腫瘍組織浸潤リンパ球と考えられた.異型脂肪芽細胞は確認されなかった.腫瘍組織の免疫染色にて異型細胞は MDM2 に強陽性を示し,FISH にて MDM2 遺伝子領域(12q13-15)の増幅を認め,脱分化型脂肪肉腫と診断した.

    結論:まれな精索原発脱分化型脂肪肉腫の細胞像を検討した.脱分化型脂肪肉腫の予後は不良とされているが,術後長期間に再発を認めておらず,腫瘍組織浸潤リンパ球の免疫応答が長期生存に寄与した可能性が示唆された.

  • 和田 裕貴, 木下 幸正, 髙石 裕子, 森 理恵, 尾﨑 萌, 木藤 克己, 杉田 敦郎, 松岡 欣也, 佐川 庸, 前田 智治
    2022 年 61 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    背景:浸潤性小葉癌(invasive lobular carcinoma:ILC)は乳癌取扱い規約の特殊型に分類され,わが国の全乳癌の約 5%を占めている.小葉癌はしばしば細胞内粘液を伴い細胞質内小腺腔や印環型細胞を認めるが,通常細胞外粘液を伴うことはない.今回われわれは細胞外粘液を伴うきわめてまれな ILC を経験したので報告する.

    症例:50 歳代後半,女性.検診で左乳房上部に 10 mm 大の辺縁やや粗造な低エコー腫瘤を指摘された.乳腺穿刺吸引細胞診では粘液を背景に,細胞質内粘液や粘液小球状様構造(mucous globular-like structure)を伴う異型細胞集塊が認められ,悪性(推定組織型:分泌癌)と判定した.乳房部分切除が施行され,組織標本では古典型 ILC と細胞外粘液を伴う粘液癌様成分が混在した腫瘍を認めた.古典型 ILC だけでなく粘液癌様成分でも E-cadherin の発現が消失していたことから,ILC with extracellular mucin と診断した.

    結論:細胞外粘液は一般に乳管起源の腫瘍に関連することから,粘液結節から採取された細胞像から ILC を推定することは困難であった.ILC with extracellular mucin の診断には E-cadherin および catenin の免疫染色が有用と考えられた.

  • 梅澤 敬, 瀬戸口 知里, 林 榮一, 山村 信一, 髙橋 慎治, 熊谷 二朗
    2022 年 61 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    背景:Liquid-based cytology(LBC)標本から細胞転写法による免疫細胞化学染色を行い,肉腫様変化を伴った子宮頸部腺扁平上皮癌の再発を判定できたので,細胞学的所見を加え報告する.

    症例:60 歳代.手術材料で病理組織学的に肉腫様変化を伴う腺扁平上皮癌と診断された(ⅡB 期,pT2bN0M0).術後 22 ヵ月目の LBC による腟断端細胞診で紡錘形や多辺形細胞,一部に多核巨細胞の肉腫様細胞が出現していた.角化異常細胞や明らかな腺癌の特徴はみられなかった.LBC 標本からの細胞転写による免疫細胞化学染色を行い,肉腫様成分は cytokeratin(8/18),p16 と ki-67 の 2 重染色に陽性で,子宮頸癌の再発と判定した.腟断端の生検でも肉腫様の紡錘形細胞が増殖し,子宮頸癌の再発と診断された.

    結論:LBC の余剰検体を利用した細胞転写による免疫細胞化学染色を行い,肉腫様変化を伴う非角化型扁平上皮癌成分の再発を判定できた.LBC は腟断端細胞診においても有用であった.

  • 石井 脩平, 古田 則行, 伊藤 崇彦, 山田 麻里沙, 山﨑 奈緒子, 池畑 浩一, 藤山 淳三, 阿部 仁, 杉山 裕子, 竹内 賢吾
    2022 年 61 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    背景:ランゲルハンス細胞肉腫(Langerhans cell sarcoma,以下 LCS)はきわめてまれな腫瘍である.今回,右上腕に発生した LCS を経験したので報告する.

    症例:50 歳代,男性.右上腕腫瘤を自覚したため前医を受診.その 4 ヵ月後に右腋窩腫瘤や左側胸部腫瘤にも気づき,当院紹介受診.右上腕腫瘤からの針生検では確定診断にはいたらず,切開生検が施行された.切開生検時の圧挫細胞診では,泡沫状ないしレース様の広い細胞質を有する腫瘍細胞を孤立性に多数認めた.明瞭な核小体やコーヒー豆様の核溝を有する腫瘍細胞が混在してみられた.また,多核巨細胞や核分裂像も散見され,ランゲルハンス細胞由来の腫瘍を疑った.組織診では,淡好酸性の広い胞体と切れ込みや脳回状の核縁を呈する核や明瞭な核小体を有する細胞のびまん性増生を認めた.巨核・多核細胞や核分裂像も散見された.臨床情報を加味し LCS と診断された.

    結論:ランゲルハンス細胞由来の腫瘍を疑った際に,好酸球の出現がなく明瞭な核小体を有する異型細胞が混在し,多核巨細胞や核分裂像が目立つ場合には臨床情報を加味し,LCS も鑑別に挙げる必要がある.

  • 小田 晋輔, 桑本 聡史, 松下 倫子, 徳安 祐輔, 野中 道子, 中本 周
    2022 年 61 巻 1 号 p. 48-52
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    背景:Switch/sucrose-nonfermenting(SWI/SNF)複合体発現欠失を示す非定型的な高異型度成分を合併した子宮体癌の 1 例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

    症例:50 歳代,女性.前医で子宮内膜細胞診陽性のため,精査目的に当院産婦人科を紹介受診.子宮内膜細胞診標本では,N/C 比大,核密度の高い小型の立体的細胞集塊,乳頭状集塊,異型細胞の付着する血管結合織の出現,といった所見を認めた.画像検査および内膜掻爬検体の組織診結果から特殊組織型子宮体癌ⅠB 期(FIGO 2008)として根治術を施行した.摘出子宮では肉眼的に,体下部前壁に 4 cm 大の充実性腫瘍を認めた.組織学的には,Grade 1 の類内膜癌相当の成分と微小乳頭状パターン主体の高異型度成分の移行像を認めた.免疫染色では類内膜癌成分は ER,PAX8,BRG1,BRM が陽性である一方,高異型度成分ではそれらはいずれも欠失していた.

    結論:形態的に分化型の子宮体癌の中にも脱分化癌/未分化癌に類似の BRG1/BRM 発現欠失腫瘍が存在する可能性があり,上記細胞学的所見はその推定の手掛かりになると考える.

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