日本臨床細胞学会雑誌
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破骨細胞様巨細胞を伴う甲状腺未分化癌の1症例
小林 省二三木 洋大森 正樹
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1986 年 25 巻 4 号 p. 774-778

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抄録

破骨細胞様の巨細胞の出現を伴う未分化甲状腺癌はきわめてまれである.症例は72歳の女性で, 右甲状腺の腫瘤に気づき, 穿刺吸引細胞診で多核巨細胞をまじえる悪性細胞がみいだされた.甲状腺の亜全摘とリンパ節の廓清が行われた.細胞診における腫瘍細胞は大小不同性は著明であるが核は円形ないし長円形で, 多形性は弱く, 細胞間の結合性も弱く重積性はほとんどみられなかった.1~2個の赤く明瞭な核小体をもつものが多かった.巨細胞は破骨細胞に似るが, 核数の少ない巨細胞の核は腫瘍細胞の核に酷似していた.組織像では数個から150個ぐらいまでの核を含む巨細胞が多数介在する未分化癌で, 腫瘍のごく一部に乳頭状癌の混在がみられ, 未分化癌の部にしだいに移行していく所見を認めた.電顕的には腫瘍細胞は粗面小胞体とミトコンドリアに富み, 細胞間にはintermediate junction, basal laminaがみられた.また腫瘍細胞間にはmicrovilliの形成を伴う細胞間隙が形成され, コロイド様物質の集積がみられた.合胞化し巨細胞が形成されつつあると考えられる細胞集団にはmicrovilliの形成が一部にみられた.また巨細胞の細胞質に腫瘍細胞が部分的に取り囲まれて, 互いに細胞膜の消失しつつある像も認められた.このような所見は光顕像でもみられ, 上皮性の腫瘍細胞が合胞化して特徴ある多核巨細胞を形成するものと考えられた.

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