日本臨床細胞学会雑誌
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甲状腺原発扁平上皮癌の1例
園部 宏真辺 俊一高橋 保大原 栄二橋本 真智子中村 真一弘井 誠岸本 誠司
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1987 年 26 巻 1 号 p. 151-156

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抄録

甲状腺に原発したと考えられる中分化型扁平上皮癌に遭遇し, 捺印細胞診を行う機会を得たので, 本腫瘍の細胞像と摘出材料の病理組織学的検討結果ならびに組織発生について若干の考察を加えて報告する. 患者は嗄声と労作時の息切れを主訴とする38歳の男性であった. 手術材料では, 6×5×3cm大の腫瘍が甲状腺の峡部にあり, 両葉内や周囲組織に気管を狭窄しながら浸潤性に増殖し, 気管壁を貫いて潰瘍を形成していた. さらに腫瘍は粘膜下をリンパ行性に連続して広がり, 喉頭の右仮声帯には小隆起性の転移巣がみられた. 甲状腺腫瘍の捺印細胞診では, 主体となる腫瘍細胞は比較的大型多角形で上皮性結合を示し, 島状ないしシート状となり, 明らかな角化も認めた. 組織学的には, 本腫瘍は中分化型角化扁平上皮癌の像を呈し, 淡明な胞体を有する腫瘍細胞の増殖が優勢であった. 組織発生学的には本腫瘍は正中線上に発生していること, 舌骨部に甲状舌管嚢胞が存在することなどから甲状腺のごく近くにあった甲状舌管遺残組織を母地として発生した可能性が高いものと考えられる.

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