日本臨床細胞学会雑誌
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悪性卵巣甲状腺腫の1例
高橋 年美西野 武夫久保田 浩一河西 十九三菅野 勇長尾 孝一鈴木 孝夫
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1993 年 32 巻 3 号 p. 453-458

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抄録

卵巣皮様嚢腫内に発生したきわめてまれな悪性甲状腺腫の1例を経験した. 症例は26歳の未産婦.腫瘍は左卵巣に発生し, 長径8cm, 毛髪と脂肪を内容とする嚢腫で, 壁内充実性部の大部分は4×5×3cmの褐色調腫瘍により占められていた. その捺印細胞は甲状腺の濾胞上皮細胞に類似し好酸性のコロイド様物質を取り囲む配列を示していた. 核は円形で腫大し大小不同性や重積性がみられ, 核溝や核内封入体を伴う細胞も少なくなく悪性が示唆された. 組織学的には甲状腺組織と皮膚や軟骨, 脳などからなる成熟型奇形腫で, 甲状腺部は中心壊死を伴い濾胞上皮にはN/C比の増大や核縁の切れ込み, 織が認められた. さらに核分裂像や軽度の血管および被膜侵襲を認め, 濾胞型乳頭癌と診断された. Grimelius染色およびFontana-Masson染色は陰性で, 免疫染色ではThyroglobulin陽性, Calcitonin陰性であった. 電顕的には核の切れ込みは少数の細胞を除いては目立たず, 偽封入体も通常の乳頭癌の円形とは異なり不整形であった. DNA測定においては悪性を示唆する多倍体を示した. 明らかな乳頭癌の細胞所見や乳頭状構造はなく, 転移もなかったので悪性の判断は難しかったが, 免疫染色, 電顕, DNA分析学的にも濾胞型乳頭癌の診断に矛盾する所見はなかった.

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