日本臨床細胞学会雑誌
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肺犬糸状虫症の1例
細胞学的, 病理組織学的, 免疫学的診断の経験
柴崎 正巳市東 功今野 暁男由佐 俊和渋谷 潔窪沢 仁菅野 勇長尾 孝一
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1997 年 36 巻 2 号 p. 174-178

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抄録

犬糸状虫 (Dirofilaria immitis, 以下D. immitis) の人体への感染経路は, 中間宿主である蚊が刺咬する際に, 蚊の体内にて発育した感染幼虫が人体へ侵入することにより感染へと至る比較的まれな人畜共通感染症の一つである. 近年, 検診などの普及に伴い肺犬糸状虫症 (Pulmonary dirofilariasis) の報告例は増加している.
症例は63歳の男性で自覚症状は認めず, 住民検診にて右肺の腫瘤状陰影を指摘され, 精査の結果, 肺の悪性腫瘍も否定できなかったため, 胸腔鏡下, 右肺上葉部分切除術が施行された. 手術中に提出された腫瘤の術中細胞診, 標本作製時に虫体を検出した. スライドガラスによる擦過塗抹標本では壊死物質を背景に, 少数のリンパ球と好酸球の増加を認めた. 病理組織学的検査では, 中心部に壊死の強い厚い結合組織に覆われた肉芽腫を認めた. また, その壊死物質内部の血管内には栓塞した虫体を認めた. 採取された虫体はその断面の形態学的検査および免疫学的検査によりD. immitisと同定された.
肺犬糸状虫症はまれな疾患ではあるが, 念頭に置くべき疾患の一つと考えられた.

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