授乳期両側性小葉癌の1例を経験したので報告する.患者は両側乳房の腫張と痺痛を主訴とする授乳期の35歳女性.初診時の穿刺吸引細胞診で授乳期腺腫と診断したが, 一週後の再来時, 臨床的に強く悪性を疑わせたため再度の穿刺吸引細胞診と新たに針生検組織診が施行された.その結果, 両側とも悪性で浸潤性小葉癌と判明した.同時に行われた精査にてすでに全身転移が認められた.細胞診では壊死のない背景に軽い重積性とゆるい結合性のシート状配列の小集団と孤立散在性の腫瘍細胞がみられた.細胞質は広く泡沫状でN/C比は小さく, 小型円形核を有していた.核の大小不同, そして核小体の腫大とその周囲明庭を一部に認めた.クロマチンは微細で核縁の肥厚はなかった.また双極裸核も認めなかった.組織学的に粘液様背景に浸潤性発育を示すシート状~索状配列の腫瘍細胞を認めた.胞体は分泌空胞に富み, その一部は印環細胞様で, 小型円形核は軽度の核形不整があった.授乳期におけるホルモンの影響を持つ両側性の浸潤性小葉癌と診断したが, 授乳期の小葉癌は授乳期腺腫にきわめて類似する細胞像を呈することがわかった.本例は授乳期小葉癌における穿刺吸引細胞像の最初の報告例と考える.