膵原発リンパ上皮性嚢胞はきわめてまれな腫瘍で, その細胞学的報告例はほとんどない. 今回われわれは, 膵尾部に発生したリンパ上皮性嚢胞の1例を経験したので過去の文献的報告例と比較し, その細胞像を中心に報告する.
症例は66歳, 男性. 大腸ポリープを認め, 術前検査にて, 血中腫瘍マーカーCEA, CA19-9, SPan-1の上昇を認めたため精査となった. 腹部超音波検査にて膵尾部に直径約4cmの内部エコー不均一な嚢胞性腫瘤, CTでは比較的境界明瞭で内腔に隔壁を有する多房性嚢胞腫瘤が認められた. 以上の所見より膵嚢胞腺腫または腺癌が疑われ, 膵体尾部脾臓合併切除術が施行された.
術中腫瘤嚢胞内容液の細胞像は, 背景にヶラチン物質と少数のリンパ球および組織球, また, 扁平上皮細胞が散見された. またギムザ染色ではコレステリン結晶も認められた. 捺印細胞像は, 嚢胞内容液の所見に加え, オレンジG好染性で角化を示す扁平上皮細胞, 化生細胞および円柱状の細胞, また一部皮脂腺由来と思われる細胞もみられた.
本症例はきわめてまれな病変であるが, 細胞学的診断は容易であるため, 術中内容液吸引または捺印細胞診が特に迅速診断に有用である.
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