日本障害者歯科学会雑誌
Online ISSN : 2188-9708
Print ISSN : 0913-1663
ISSN-L : 0913-1663
症例報告
精神遅滞および注意欠陥・多動性障害を伴った先天性筋強直性ジストロフィー患者に対する周術期全身管理
小田 綾吉田 啓太向井 友宏宇野 珠世好中 大雅向井 明里吉田 充広入舩 正浩
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 37 巻 1 号 p. 48-53

詳細
抄録

筋強直性ジストロフィー患者は,悪性高熱症発症,術後呼吸器合併症発症など多くの問題を有しており,周術期全身管理では特別な配慮を要する.さらに,患者が精神遅滞や注意欠陥・多動性障害を伴う場合,その障害に応じた行動調整法が必要となり,管理は困難となることが予測される.今回,精神遅滞および注意欠陥・多動性障害を伴う先天性筋強直性ジストロフィー患者の周術期全身管理を経験した.患者は以前に下顎前突による咬合不全のため,下顎骨移動術が施行され,今回,全身麻酔下で抜釘術が予定された.プロポフォール,レミフェンタニル塩酸塩併用による全静脈麻酔法を選択し,著変を認めることなく手術は終了した.下顎骨移動術時は検査結果や理学所見など総合的に判断して一般病棟へ帰室させた.しかし,今回は,術前クレアチンキナーゼ値の上昇や筋易疲労性の進行を認め,下顎骨移動術時に比較して全身状態が悪化している可能性があったため,術後は集中治療室での管理とした.集中治療室では環境への適応に加え,導尿や頻回の吸痰など不快事項を克服する必要があり,さらに就眠時に一過性の無呼吸によるSpO2の低下がみられ,翌朝まで鼻カニューレによる酸素投与も必要であった.このため患者の好きなDVDを持ち込み,繰り返し鑑賞させることで,視覚を用いた同一性保持現象を利用して不快事項を克服するとともに,ベッド上安静を保ち,良好に管理を行うことができた.

著者関連情報
© 2016 一般社団法人 日本障害者歯科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top