2016 年 37 巻 1 号 p. 42-47
Rubinstein-Taybi症候群(RTS)とは,精神遅滞,特異的な顔貌,幅広い母指(趾)を主徴とする先天性奇形疾患である.一般的にRTSでは,小顎などの特異的な顔貌により歯科治療時の気道確保困難が予想される.今回,われわれは,RTS患者の歯科治療に対する全身麻酔を経験した.患者は28歳の男性,身長144.9cm,体重55.9kg(BMI 26.6).精神遅滞のため,全身麻酔下で歯科治療を計画した.患者は,小顎,Mallampati分類Class Ⅲ,短頸であり気道確保困難が予測された.また,術前の胸部エックス線写真で心拡大を認めたため,循環器内科に対診し精査されたが異常はなく,肥満による横位心の診断であった.患者は手術前日に入院し,全身麻酔はプロポフォールとレミフェンタニルで急速導入を行った.その際マスク換気は容易であったが,気管挿管は困難でありエアウェイスコープ®を用いることによりなんとか挿管しえた.その後は特に問題なく手術を終えた.術後は,RTSに加え肥満によるその気道確保の困難性から創部の腫脹や出血による気道閉塞が懸念されたが,腫脹は軽度で気道の開通性も十分保たれていたため,翌日には軽快退院した.本患者は,術後にいたるまで気道閉塞のリスクがあったため,入院下での継続的な管理が必要であった.しかし,本症例では精神遅滞を伴っていたため,頻回な吸引操作などの厳重な管理によりかえって興奮を招く恐れがあり,術後合併症の誘発因子をできるかぎり排除しなければならなかった.