2016 年 37 巻 2 号 p. 157-162
知的障害患者に対して歯の自家移植を応用し,臼歯部咬合を回復して良好な経過を得た.患者は初診時年齢22歳女性.軽度知的障害.過去の抜歯体験に基づく歯科恐怖を訴えていた.口腔内は多発性う蝕を認め,臼歯部の咬合支持を喪失していた.本症例に対し,長期安定性が高く自己管理がしやすい口腔内の確立を目指し,臼歯部咬合の回復手段として,下顎左側第一大臼歯への上顎右側第三大臼歯の自家移植を選択した.治療方針のインフォームド・コンセントは患者および母親に対し繰り返し,理解を得るための配慮をした.また歯科恐怖に対してはTell-Show-Do法に基づく行動療法を実施し,恐怖を拭い去れなかった外科処置に関してのみ静脈内鎮静法を併用した.歯の自家移植を成功させるため,事前に乱れた咬合平面の是正と咬合挙上を行い,移植歯の安静が保たれるようにした.さらに担当歯科衛生士による一貫した口腔衛生指導を行い,患者自身で口腔清掃を行えるように支援を続けている.知的障害患者における歯の自家移植の実施にはさまざまな課題が存在するが,対応を十分に検討・工夫することで欠損の機能回復手段となる可能性が示された.