日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
顎変形症手術後に誤嚥性肺炎を生じた筋強直性ジストロフィー患者の1例
田中 麻央岩崎 昭憲秦泉寺 紋子中井 史小川 尊明大林 由美子上里 聡三宅 実
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2019 年 40 巻 1 号 p. 44-51

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抄録

筋強直性ジストロフィー患者に対して全身麻酔下にて顎変形症手術を行い,術後に嚥下機能低下から誤嚥性肺炎を発症した症例について報告する.症例は28歳男性.外科的矯正治療目的に当院を受診し,全身麻酔下での手術を計画した.術前の血液生化学検査でクレアチンキナーゼ(Creatine Kinase;CK)の異常高値を認め,神経内科に対診したところ,筋強直性ジストロフィーと診断された.全身麻酔下での治療は可能と判断し,両側下顎枝矢状分割術を施行した.術後より発熱を認め,術後5日目,画像検査から誤嚥性肺炎が疑われた.耳鼻咽喉科で嚥下機能評価を行い,両側披裂部粘膜の内出血斑や浮腫を認めるとともに,水分嚥下時の喉頭侵入を確認した.経口摂取は禁止とし,リハビリテーションを開始した.訓練開始後の嚥下機能評価では粘膜浮腫は軽減し,咽頭クリアランスの改善を認めたことから,術後11日目より経口摂取を開始した.その後,発熱や肺炎の再燃もなく術後20日目に退院となった.筋強直性ジストロフィーは呼吸筋,咽頭筋の筋力低下を認めることが多く,特に本症例のような口腔咽頭環境に影響を与える頭頸部領域の手術の際は,全身麻酔手術前に嚥下機能の評価を行うことが重要である.術前に診断された疾患に対して医療者側が理解を深め適切な術前検査を施行し,それらを踏まえて,個々の病態に合わせた治療計画を立案することが必要であると再認識した.

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© 2019 一般社団法人 日本障害者歯科学会
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