日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
重度知的能力障害のある小児の外傷による下顎骨骨折に対して経過観察による保存的治療を選択した1例
長沼 由泰高橋 温星 久美猪狩 和子
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2019 年 40 巻 2 号 p. 185-190

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抄録

障害のある小児の口腔外傷の発症頻度は定型発達児よりも高く,障害が重複するほどその受傷頻度は高くなる傾向があり,治療法の選択にあたって制限を生じることがある.

今回,われわれは知的能力障害児の下顎骨骨折に対し保存療法を選択した症例を経験した. 症例は重度の知的能力障害とてんかんを有する14歳女子で,転倒により顔面を強打し,受傷2日後に左頰部の腫脹と開口障害を主訴に受診した.画像診断により左側下顎骨関節突起部骨折と下顎右側小臼歯部骨体部の不全骨折を認めた.歯の脱臼や破折,軟組織の損傷は確認されなかった.関節突起部に関しては,軽度の下顎偏位がみられたが,ガイドラインに即して筋機能訓練と経過観察による保存的治療の適応と判断した.骨体部は不全骨折であったが再転倒などによる完全骨折への移行の可能性がありなんらかの固定術が望まれた.これらの方針を保護者に説明したが,重度の知的障害のため機能訓練や固定術への適応は困難であり保護者も積極的介入を望まなかったため,軟食摂取と開口制限指示のみの経過観察を選択した.受傷27日後,開口量は自発的に30 mmを認め,食事量も回復し,CT所見で骨折部の骨形成を認めた.受傷119日後には骨体部・関節突起部とも骨連続性の回復が観察され,下顎の偏位は認めなかった.受傷217日後には骨癒着を認め骨折線の消失が確認された.受傷後1年経過し開口障害や顔面非対称を生じることなく良好な治癒が得られた.

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© 2019 一般社団法人 日本障害者歯科学会
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