2020 年 41 巻 1 号 p. 1-11
口腔粘膜は皮膚より創傷治癒が早いが,糖尿病,免疫機能低下や低栄養状態では治癒不全が起きやすく,QOLの維持に関与する.γ-glutamyl transpeptidase(GGT)阻害剤であるGGsTop®が,皮膚線維芽細胞において,コラーゲンやエラスチン産生を上昇させ,口内炎誘発モデルマウスにおいて治癒促進に効果があったとの報告があることから,口腔の創傷治癒促進に対する有用性を検討した.ヒト歯肉線維芽細胞HGF-1へのtransforming growth factor-β1(TGF-β1)存在下ないし非存在下でのGGsTop®添加による影響を,スクラッチアッセイならびに遺伝子発現解析によって検証した.加えてマウスを用いて口蓋粘膜創傷治癒へのGGsTop®塗布の影響を確認した.GGsTop®が添加されたHGF-1はTGF-β1産生量を増大し,スクラッチアッセイにおいて細胞増殖能を亢進させることが明らかにされた.さらにGGsTop®は,TGF-β1存在下でmatrix metalloproteinase 13遺伝子発現の上昇を引き起こす可能性も示唆された.一方,TGF-β1存在下でGGsTop®が添加されたHGF-1におけるα平滑筋アクチン遺伝子発現の上昇は認められなかった.またマウスを用いた動物実験において,GGsTop®塗布により口蓋粘膜の創傷の治癒促進が認められた.以上の結果より,GGsTop®の口腔内の創傷治癒促進に対する有用性は高いと思われる.