日本障害者歯科学会雑誌
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41 巻, 1 号
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原著
  • 佐久間 圭, 田中 陽子
    2020 年41 巻1 号 p. 1-11
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    口腔粘膜は皮膚より創傷治癒が早いが,糖尿病,免疫機能低下や低栄養状態では治癒不全が起きやすく,QOLの維持に関与する.γ-glutamyl transpeptidase(GGT)阻害剤であるGGsTop®が,皮膚線維芽細胞において,コラーゲンやエラスチン産生を上昇させ,口内炎誘発モデルマウスにおいて治癒促進に効果があったとの報告があることから,口腔の創傷治癒促進に対する有用性を検討した.ヒト歯肉線維芽細胞HGF-1へのtransforming growth factor-β1(TGF-β1)存在下ないし非存在下でのGGsTop®添加による影響を,スクラッチアッセイならびに遺伝子発現解析によって検証した.加えてマウスを用いて口蓋粘膜創傷治癒へのGGsTop®塗布の影響を確認した.GGsTop®が添加されたHGF-1はTGF-β1産生量を増大し,スクラッチアッセイにおいて細胞増殖能を亢進させることが明らかにされた.さらにGGsTop®は,TGF-β1存在下でmatrix metalloproteinase 13遺伝子発現の上昇を引き起こす可能性も示唆された.一方,TGF-β1存在下でGGsTop®が添加されたHGF-1におけるα平滑筋アクチン遺伝子発現の上昇は認められなかった.またマウスを用いた動物実験において,GGsTop®塗布により口蓋粘膜の創傷の治癒促進が認められた.以上の結果より,GGsTop®の口腔内の創傷治癒促進に対する有用性は高いと思われる.

症例報告
  • 濵 陽子, 宮内 美和, 大石 瑞希, 岡田 紗夜, 沖野 恵梨, 新谷 宏規, 三戸 敦史
    2020 年41 巻1 号 p. 12-15
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    気管内挿管時の突然の換気困難の原因の一つとして,分泌物による気管チューブの閉塞が挙げられる.今回,気管挿管直後に異物により気管チューブが閉塞され換気困難を生じた自閉スペクトラム症患者の一例を経験したので報告する.

    患者は16歳男性,中等度知的能力障害を伴う自閉スペクトラム症があり,近医にて幼少期より歯科治療のためのトレーニングを行っていた.しかし,拒否が強く治療困難であったため当センターを紹介され,全身麻酔下でのう蝕処置および除石を計画した.全身麻酔導入開始時,静脈路確保やマスク換気は問題なく,右鼻から経鼻用気管チューブを挿入した.経鼻挿管はスムーズで鼻出血も認めなかった.しかし,挿管直後から換気困難となったため抜管し,挿管チューブ内を確認したところ,チューブの径にほぼ一致した大きさの鼻垢が確認された.本症例では,マスク換気時には特に問題がなかったため,挿管チューブ内に問題がある可能性が高いと判断した.その後,新たな気管チューブにて経鼻挿管を実施し,問題なく全身麻酔下での歯科治療を実施した.今回,換気困難の原因を冷静に分析し,ただちに適切な対応をとったことで,深刻な事象の発生は免れた.

  • 矢口 学, 佐久間 圭, 市川 勝一, 菱沼 光恵, 根岸 浩二, 小野 晃弘, 田中 陽子
    2020 年41 巻1 号 p. 16-22
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    Marfan症候群は,FBN1遺伝子の変異が原因とされる常染色体優性遺伝の全身結合組織疾患であり,重篤な大動脈疾患や歯周病の罹患率が高い.歯周病はMarfan症候群における心臓疾患の状態と関与している可能性が指摘されていることから,発症のメカニズムの解明は患者のQOLの維持において重要な意味をなす.FBN1遺伝子は細胞外マトリックスの構成成分である弾性線維の構造を維持するFibrillin-1(FBN-1)をコードしている.歯根膜はFibrillinを主成分とするオキシタラン線維から構成されており,FBN1遺伝子の変異は歯根膜の機能異常を誘発している可能性があることがMarfan症候群にみられる歯周病の原因として考えられている.このような背景から,現在までのMarfan症候群の歯周病発症のメカニズムの解明には歯根膜細胞が用いられ,組織障害性を主とした研究のみであり,歯肉線維芽細胞に着目し炎症病態に焦点を当てたものは報告されていない.

    Marfan症候群における歯周病を代表とした炎症病態のメカニズムを解明する目的で,一卵性双生児であるMarfan症候群患児から採取した歯肉線維芽細胞を用いて実験を行ったところ,一卵性双生児であっても,無刺激時におけるtransforming growth factor-β type I receptorの発現性や,LipopolysaccharideないしInterleukin(IL)-1β刺激時におけるIL-6,matrix metalloproteinase 3,9,13遺伝子の発現性に違いが認められた.

臨床集計
  • 嘉手納 未季, 栗谷 未来, 馬目 瑶子, マイヤース 三恵, 丸岡 靖史, 五島 衣子, 飯島 毅彦, 船津 敬弘
    2020 年41 巻1 号 p. 23-28
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    スペシャルニーズのある患者では心理学的アプローチによる意識下での歯科治療が困難な場合があり,薬理学的アプローチの一つとして全身麻酔下での集中歯科治療が選択される.今回,スペシャルニーズ歯科センターでの全身麻酔下治療の実態を把握するために,当センターが開設された平成24年4月から平成30年3月までの6年間の調査を行った.当センターにて全身麻酔下治療を行った474症例(患者数301名)を対象とし,調査は診療録や麻酔記録を資料として,年度別症例数,患者数,障害の内訳,処置内容,入院日数などについて行った.年度別症例数は平成24年度が63例,25年度が83例,26年度が76例,27年度が87例,28年度が75例,29年度が90例であった.障害の内訳は自閉スペクトラム症および知的能力障害で半数以上を占めていた.処置内容はコンポジットレジン修復が最も多く,次いで抜歯の順であった.入院日数は日帰り症例が大多数を占めた.当センターでの日帰りによる全身麻酔下治療の処置時間は2時間を基本としているため,治療時間に制限があり,治療本数が多い場合などでは治療回数が複数回となることもあるが,環境の変化に適応が困難なことが多い障害者には今後も日帰り全身麻酔が選択されると考える.

  • 田中 健司, 廣瀨 陽介, 向井 千加子, 村上 旬平, 秋山 茂久
    2020 年41 巻1 号 p. 29-34
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    障害者歯科医療における地域連携を促進する目的で,全身麻酔下による歯科治療を終了したが,その後の定期検診を受診しなかった患者の未受診の原因を明らかにするために,アンケートにより調査を行った.

    調査対象は,当診療所にて歯科治療が終了し,かかりつけ歯科医院に逆紹介した患者691名とした.そのうち,かかりつけ歯科医院への定期検診受診が確認できなかった患者250名に対してアンケート用紙を郵送した.調査内容は当診療所での治療終了後の歯科受診状況,未受診にいたる理由,および当診療所の全身麻酔下歯科治療の満足度の評価などとした.

    アンケート回収率は36.4%(91/250名)であった.そのうち,かかりつけ歯科医院への未受診患者は42名であった.未受診率は未就学児,小学生および在宅患者で高く,紹介先別では2次医療機関に紹介した症例が多かった.定期検診の未受診にいたる要因として,「忙しい,時間が合わない」が16名,「歯科治療への適応行動が困難である」11名,「口腔内に問題がないから」6名,「学校検診を受けているから」2名などの理由が挙げられた.未受診患者の満足度調査では全身麻酔に関するインフォームドコンセントや治療内容に関しては90%以上満足していた.しかし,高い満足度を示した患者のすべてが定期検診を受診していたわけではなかった.以上より,今後も治療終了後の定期検診の重要性を改めて啓発し,さらなる地域連携を強化する必要があるものと思われた.

  • 尾田 友紀, 吉田 啓太, 古谷 千昌, 小田 綾, 向井 友宏, 入舩 正浩, 岡田 芳幸
    2020 年41 巻1 号 p. 35-41
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    障害者歯科では,全身麻酔下第三大臼歯抜去に際し,治療回数を減らす目的で複数歯を抜去することがある.一方,複数歯の抜去は侵襲が広範囲に及ぶため,食事摂取量が減少する可能性がある.今回,障害者の歯科治療にあたり,食事摂取困難となるような機能障害を最小限にし,食事形態の見直しも含めて患者にとって有益と考えられる第三大臼歯抜去術計画を立案することを目的に臨床統計学的検討を行った.

    本院障害者歯科において全身麻酔下第三大臼歯抜去術を行った18歳以上の知的能力障害者を対象とした.処置前後の食事摂取量を比較した結果,主食では10%,副食では20%の減少率を認めた.主食の食事摂取量が10%減少し,かつ副食の食事摂取量が20%減少したものを食事減少群,それ以外を食事非減少群とし,患者背景や手術時間などを比較した.

    食事減少群では食事非減少群と比較して,患者背景などにおいて差はなかったが,手術時間においてのみ有意に長かった.

    本院障害者歯科において,全身麻酔下第三大臼歯抜去後の食事摂取量減少に,手術時間の長さが影響していると考えられた.時間を一つの目安として治療計画を立案することで,摂食しづらい状態を引き起こすような機能障害は軽減でき,食へのこだわりが強い知的障害者でも,常食に近い形態での食事が可能となることが示唆された.

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