2023 年 44 巻 1 号 p. 1-9
緒言:新型コロナウイルス感染症は世界中のあらゆる分野に大きな影響を及ぼした.しかし,新興感染症発生時の障害者歯科の受診状況について検討した報告はない.そこで本研究では,緊急事態宣言中に当院障害者歯科に受診予定であった患者の受診状況に関する実態調査を行い,受診するか否かの判断と関連する因子を明らかにすることを目的とした.
対象ならびに方法:全国に1回目の緊急事態宣言が発出された期間(2020年4月16日~5月14日)に,当院障害者歯科を受診する予定であった患者320名とその保護者を対象とし,郵送によるアンケートを行った.対象のうち回答の得られた198名のうち,185名を解析した(広島大学疫学研究倫理審査委員会にて承認済み).
結果:アンケート結果より,全体の約7割の患者が歯科受診を延期した.『自分の判断で延期した群』『大学からの連絡で延期した群』『受診継続群』の3群間に対して,口腔内への不安の有無で有意に差が認められた.また,「口腔内不安あり」では,「緊急事態宣言中に障害者歯科受診を延期する」に対して有意な差が認められた.
考察および結論:新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い,歯科受診を延期することで,患者や保護者の口腔内への不安が増加することが示唆された.今後,新たに新興感染症が発生した場合でも,歯科受診を中断させない仕組みづくりが重要であると考えられた.