日本障害者歯科学会雑誌
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44 巻, 1 号
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原著
  • 尾田 友紀, 古谷 千昌, 宮崎 裕則, 森本 雅子, 西尾 良文, 山口 久穂, 朝比奈 滉直, 吉田 結梨子, 内藤 真理子, 岡田 芳 ...
    2023 年 44 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    緒言:新型コロナウイルス感染症は世界中のあらゆる分野に大きな影響を及ぼした.しかし,新興感染症発生時の障害者歯科の受診状況について検討した報告はない.そこで本研究では,緊急事態宣言中に当院障害者歯科に受診予定であった患者の受診状況に関する実態調査を行い,受診するか否かの判断と関連する因子を明らかにすることを目的とした.

    対象ならびに方法:全国に1回目の緊急事態宣言が発出された期間(2020年4月16日~5月14日)に,当院障害者歯科を受診する予定であった患者320名とその保護者を対象とし,郵送によるアンケートを行った.対象のうち回答の得られた198名のうち,185名を解析した(広島大学疫学研究倫理審査委員会にて承認済み).

    結果:アンケート結果より,全体の約7割の患者が歯科受診を延期した.『自分の判断で延期した群』『大学からの連絡で延期した群』『受診継続群』の3群間に対して,口腔内への不安の有無で有意に差が認められた.また,「口腔内不安あり」では,「緊急事態宣言中に障害者歯科受診を延期する」に対して有意な差が認められた.

    考察および結論:新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い,歯科受診を延期することで,患者や保護者の口腔内への不安が増加することが示唆された.今後,新たに新興感染症が発生した場合でも,歯科受診を中断させない仕組みづくりが重要であると考えられた.

  • 野上 有紀子, 中村 由紀, 五月女 哲也, 清川 裕貴, 朴沢 美生, 築野 沙絵子, 笹川 祐輝, 鈴木 絢子, 花﨑 美華, 中島 努 ...
    2023 年 44 巻 1 号 p. 10-18
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    被虐待児童はう蝕が多いとされているが,これまでの報告の多くは,う蝕有病者率やう蝕経験歯数に限られていた.本研究では,被虐待児童におけるう蝕罹患状況の特徴を探索するため,歯種別に解析を行った.歯種別解析の対象は,2~19歳の一時保護所への入所理由が「虐待」の児童(虐待群)323名とした.年齢に応じて,乳歯の解析では2区分(2~5歳,6~9歳),永久歯では3区分(5~9歳,10~14歳,15~19歳)とし,歯科疾患実態調査(対照群)と比較を行った.乳歯,永久歯ともに一人平均未処置歯数は虐待群において有意に高く,永久歯においては一人平均う歯数がすべての年齢区分で虐待群が有意に高かった.歯種別に解析した結果,乳歯では上顎左側乳中切歯と上顎右側乳犬歯,永久歯では第一大臼歯と第二大臼歯において,虐待群が有意にう歯保有者率が高かったが,虐待群の歯種別う蝕罹患状況として明確な特徴と判断できるものはなく,一般にう蝕が発生しやすい部位において虐待群ではさらに高い割合でう蝕を有し,永久歯萌出直後早い段階で罹患していると考えられた.一人平均う歯数のパーセンタイル値では,いずれの年齢区分においても虐待群の25%は対照群と同様にう歯を有していなかった一方で,虐待群の一部の者のう歯数が非常に多く,虐待群の全体的なう蝕歯数の数値を引き上げていると推察された.

症例報告
  • 久保寺 友子, 成瀬 正啓, 池田 正一
    2023 年 44 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    先天性無痛無汗症(Congenital Insensitivity to Pain with Anhidrosis;CIPA)は,温・痛覚欠如,発汗障害,知的能力障害を特徴とする常染色体潜性遺伝の疾患である.無痛無汗症の歯科的な問題として,舌,口唇,頰粘膜,手指の咬傷,上下顎骨髄炎,顎骨の病的骨折などが挙げられる.今回,乳児期から成人にいたるまで長期に口腔管理を行った症例について,その経過および2歳7カ月時,5歳1カ月時,27歳6カ月時の歯列模型計測の結果を報告する.

    1.乳幼児期において,下顎は生後10カ月から,上顎は1歳時から4歳8カ月まで,舌,頬粘膜の咬傷に対して保護プレートを使用した.

    2.乳歯萌出早期からの保護プレート使用は,乳歯歯根完成前の早期抜歯,脱落を予防し,咬傷を保護する効果的な方法である.

    3.模型分析では,永久歯列では上下顎とも歯列弓の狭窄は認めず,乳歯列期の保護プレートの使用による永久歯の歯列咬合への明らかな影響はなかった.

    4.永久歯列において,急激な上顎両側第一,第二大臼歯の動揺が発生し,左側第一,第二大臼歯は保存困難のため抜去した.右側第一,第二大臼歯は一塊となり脱落したが,歯周炎から骨髄炎を生じ腐骨が分離し脱落したと推測された.

臨床集計
  • 大西 智之, 久木 富美子, 藤本 真智子, 藤代 千晶, 金高 洋子, 藤原 富江, 田井 ひとみ, 寺田 奈緒
    2023 年 44 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(ASD)児には歯科治療に協力できずデンタルチェア(チェア)で仰臥位をとれない児も少なくない.定期健診で行うスケーリングや機械的歯面清掃処置などはチェアを使用しなくてはできないが,刷掃指導,食生活指導,口腔内診査,フッ化物歯面塗布やサホライド®塗布,セメントによる仮封などチェアを用いなくても可能な行為も多い.当科では,非協力児に対して,チェアで仰臥位をとることが可能になるまで,床に敷いたリハビリ用マット(マット)上で定期健診を行っている.今回,初診時にチェアで仰臥位をとることが困難であった3~5歳のASD児に対しての,9歳までのマットあるいはチェアでの刷掃指導や口腔内診査への適応性の経過を紹介する.対象児43人のうち,初診直後の2回目来院時にマット上で協力的に刷掃指導や口腔内診査ができたのは8人で,チェアで仰臥位をとれた児はいなかった.6歳時にマット上で刷掃指導や口腔内診査ができたのは13人,チェアで刷掃指導や口腔内診査ができたのは5人であった.最終的に9歳時にチェアでの刷掃指導や口腔内診査に協力的であったのは25人であった.このように,チェアで仰臥位をとることが困難な児でも,マットでの刷掃指導や口腔内診査が可能な場合があることから,チェアで仰臥位をとることが可能となるまではマットでの定期健診は有用であると思われる.

  • ―日帰り全身麻酔と入院下全身麻酔の比較―
    阿部 佳子, 鈴木 將之, 早川 佳男, 矢島 愛美, 河原 博
    2023 年 44 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    本学歯学部附属病院障害者歯科で行う全身麻酔は,2泊3日の入院下の周術期管理を基本としてきたが,2018年12月から日帰り全身麻酔システムの運用を開始し,3年が経過した.今回,日帰り全身麻酔を施行した症例の患者背景・処置内容・全身麻酔法・合併症の有無について統計的検討を行った.

    日帰り全身麻酔は73例で,男性は43名,女性は30名であった.このうち39名が障害児・者であった.処置内容は,智歯抜歯術が最も多く,保存・補綴治療を目的とした症例は13例のみであった.全身麻酔法はセボフルランによる吸入麻酔薬による全身麻酔を主体とした.現在まで大きな合併症や問題点はなく経過している.

    障害者歯科の入院管理下での全身麻酔症例数および外来での静脈内鎮静法症例数は,日帰り全身麻酔を開始する前後の3年間で変化がなかったため,新たに日帰り全身麻酔の適応症例が増加したと考えられる.障害者歯科では,患者本人や家族の都合で入院が困難となる症例や多数歯の処置を短期間のうちに行うべき症例,通法下の処置や静脈内鎮静法を適用すると治療の回数が多くなることが予想される症例などは,日帰り全身麻酔下治療を選択することで,患者やその家族の負担が軽減されることが想定される.

  • 齋藤 知子, 村内 光一, 伊藤 美咲, 森崎 市治郎
    2023 年 44 巻 1 号 p. 39-45
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    1987年から35年間,開業歯科医院が行ってきた在宅医療的ケア児の歯科医療について,疾患・障害別人数,居住地分布,往診・訪問診療依頼件数,初診時年齢,相談内容,呼吸管理と栄養管理の状態などを集計し考察した.往診・訪問診療先は初診時0~18歳の在宅医療的ケア児48人で,その半数以上は当院から半径4km圏内で,最も遠いところでも12km圏内であった.往診・訪問診療件数は2011年以降に著しい増加傾向がみられた.対象児の初診時年齢は1歳児が最多で,次いで2歳と4歳が多く,幼児に対する往診依頼が多かった.疾患/障害別では,脳性麻痺を中心とする低酸素脳症後遺症の小児を中心に病・障害名は27に及ぶ多様性がみられ,また胃瘻や呼吸管理,喉頭分離を行っている例が多かった.往診・訪問診療への要望理由としては,歯並びや咬合,歯の交換障害に関する診察と相談が最も多く,次いで口腔ケア,歯石除去,嚥下機能訓練の順になっており,診療内容は,特別に高度な技術を要するものや侵襲を伴うようなことはなかった.

    在宅高齢者を対象とする往診・訪問診療を行っている歯科医院は多いが,在宅医療的ケア児を対象とする歯科医院は少なく,在宅医療的ケア児に対する往診・訪問診療が望まれていると考えられ,さらに在宅医療的ケア児の歯科保健を推進していくためには,保健医療機関,療育・福祉機関や多職種と連携できるネットワークの整備が必須であると考えられる.

  • ―摂食嚥下障害と多剤服用の関連性の検討―
    山口 知子, 石川 健太郎, 山畑 智也, 弘中 祥司
    2023 年 44 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    介護老人福祉施設の入所者は複数の疾患を合併しており,摂食嚥下障害を有する率が高いとされている.今回,介護老人福祉施設の入所者における摂食嚥下障害の現状を把握するため,摂食嚥下指導の実態を調査し,多剤服用と摂食嚥下障害の関連性を検討したので報告する.対象は2017年から2020年までに摂食嚥下指導の対象となった241人である.調査項目は,対象者背景(性別,年齢,全身疾患,内服薬剤数),施設からの相談内容,評価時の食形態,摂食嚥下機能評価である.服用薬剤が5剤以下を対照群,6剤以上を多剤群とし,摂食嚥下障害の疑いの有無について比較検討した.最も多い相談内容は,対照群がむせ・嚥下困難,多剤群が食形態の変更であり,多剤群は対照群と比較し,各期において摂食嚥下障害の疑いの割合が有意に高かった.入所者の多くが複数の薬剤を服用しており,むせや嚥下困難などの訴えも多かったにもかかわらず,服薬困難についての相談はなかった.薬剤を内服させる施設職員が,摂食嚥下障害の服薬への影響を十分に認識していない可能性があると考えられ,摂食嚥下障害のある要介護高齢者にとって,服薬困難は潜在的な課題であると推察された.今後は摂食嚥下機能の専門職の視点から他職種に対して問題提起する必要があると考えられた.

  • 村上 旬平, 米倉 裕希子, 高橋 綾, 稲原 美苗, 新家 一輝, 竹中 菜苗, 森崎 志麻, 秋山 茂久
    2023 年 44 巻 1 号 p. 52-61
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部を受診する学齢期の障害のある子どもをもつ親を対象に,「親育ち学級」と名付けた多職種による心理的サポートプログラムを実践した.プログラムでは月1回,講座と哲学対話からなる120分,計8回のセッションを実施した.

    プログラムには母親4名が参加した.講座では,参加者の感情表出の評価結果や,初回セッションで出された取り上げたい話題に基づいてテーマを設定し,社会福祉学,障害者歯科学と小児看護学の専門家が子育てに役立つ情報を提供した.哲学対話では,臨床哲学とジェンダー学の専門家が進行役となり,講義の内容に基づいて問いを設定した.問いへの回答のなかで,参加者から悩みや不安などが語られた.プログラム前後で,参加者の健康関連QOLと育児ストレスはさまざまに変化した.一方,う蝕活動性と唾液緩衝能は変化しなかった.参加者アンケートでは,プログラムへの肯定的な意見が多く,今後も障害者歯科において同様の取り組みが必要などの意見が寄せられた.

    以上より長期にわたり親子とかかわる障害者歯科の特性を活かし,親支援を実践することの重要性が示唆された.障害者歯科での親への心理的サポートの提供は,親の生きづらさの改善を通じ,障害のある人の口腔保健維持に寄与することが期待された.さらに障害者歯科スタッフが親の心理や支援方法の理解を深めることで,障害者歯科医療の補強や質の向上に有意義であると考えられた.

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