先天性無痛無汗症(Congenital Insensitivity to Pain with Anhidrosis;CIPA)は,温・痛覚欠如,発汗障害,知的能力障害を特徴とする常染色体潜性遺伝の疾患である.無痛無汗症の歯科的な問題として,舌,口唇,頰粘膜,手指の咬傷,上下顎骨髄炎,顎骨の病的骨折などが挙げられる.今回,乳児期から成人にいたるまで長期に口腔管理を行った症例について,その経過および2歳7カ月時,5歳1カ月時,27歳6カ月時の歯列模型計測の結果を報告する.
1.乳幼児期において,下顎は生後10カ月から,上顎は1歳時から4歳8カ月まで,舌,頬粘膜の咬傷に対して保護プレートを使用した.
2.乳歯萌出早期からの保護プレート使用は,乳歯歯根完成前の早期抜歯,脱落を予防し,咬傷を保護する効果的な方法である.
3.模型分析では,永久歯列では上下顎とも歯列弓の狭窄は認めず,乳歯列期の保護プレートの使用による永久歯の歯列咬合への明らかな影響はなかった.
4.永久歯列において,急激な上顎両側第一,第二大臼歯の動揺が発生し,左側第一,第二大臼歯は保存困難のため抜去した.右側第一,第二大臼歯は一塊となり脱落したが,歯周炎から骨髄炎を生じ腐骨が分離し脱落したと推測された.
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