2023 年 44 巻 1 号 p. 28-33
自閉スペクトラム症(ASD)児には歯科治療に協力できずデンタルチェア(チェア)で仰臥位をとれない児も少なくない.定期健診で行うスケーリングや機械的歯面清掃処置などはチェアを使用しなくてはできないが,刷掃指導,食生活指導,口腔内診査,フッ化物歯面塗布やサホライド®塗布,セメントによる仮封などチェアを用いなくても可能な行為も多い.当科では,非協力児に対して,チェアで仰臥位をとることが可能になるまで,床に敷いたリハビリ用マット(マット)上で定期健診を行っている.今回,初診時にチェアで仰臥位をとることが困難であった3~5歳のASD児に対しての,9歳までのマットあるいはチェアでの刷掃指導や口腔内診査への適応性の経過を紹介する.対象児43人のうち,初診直後の2回目来院時にマット上で協力的に刷掃指導や口腔内診査ができたのは8人で,チェアで仰臥位をとれた児はいなかった.6歳時にマット上で刷掃指導や口腔内診査ができたのは13人,チェアで刷掃指導や口腔内診査ができたのは5人であった.最終的に9歳時にチェアでの刷掃指導や口腔内診査に協力的であったのは25人であった.このように,チェアで仰臥位をとることが困難な児でも,マットでの刷掃指導や口腔内診査が可能な場合があることから,チェアで仰臥位をとることが可能となるまではマットでの定期健診は有用であると思われる.