2024 年 45 巻 2 号 p. 77-83
脳の病変や構造異常・知的能力障害を有する障害者の歯科治療において,脳循環の管理は重要である.亜酸化窒素による吸入鎮静法は,知的能力障害や精神障害を有する患者の歯科治療に対しても広く使用されている.亜酸化窒素が脳循環に及ぼす影響として脳血流量の増加が報告されているが,吸入鎮静法で使用される低濃度(<30%)での研究報告は少ない.さらに,吸入鎮静法が頭蓋内圧に及ぼす影響は十分に解明されているとはいえない.そこで本研究では,30%亜酸化窒素吸入が脳血流量と頭蓋内圧を含む循環動態に及ぼす影響を検討した.
本研究は吸入鎮静法に関する先行研究の既存データを再解析した.健康成人8名を対象に,鼻カニューレにより亜酸化窒素30%(酸素70%)を鼻呼吸のみで吸入させ,その吸入前と吸入中に脳血流量と頭蓋内圧を含む循環動態を測定・比較した.頭蓋内圧の評価は,経頭蓋ドプラ血流計による中大脳動脈の脳血流速度波形とトノメトリ法を使用した非侵襲的連続血圧計による橈骨動脈の動脈圧波形を測定・記録し,頭蓋内構成モデルを応用した解析法を用いて算出した.
亜酸化窒素30%吸入により脳血流速度は有意な増加を示したが,頭蓋内圧は有意な変化を認めなかった.動脈圧や呼気終末二酸化炭素濃度は有意な変化を認めなかった.
本研究では,健常者において鼻カニューレから30%亜酸化窒素を投与した際,脳血流量は軽度増加する(約5%)にもかかわらず,頭蓋内圧は差を示さなかった.