2017 年 58 巻 4 号 p. 264-278
鹿児島県北部で建設中の北薩トンネルは,紫尾山花崗岩体の南西部および四万十層群を貫く山岳トンネルで,トンネル掘削中に高濃度のヒ素を含む大量の湧水(最大で1,200t/h)が発生した.事前調査の結果から,ヒ素を含むトンネルずりの発生が想定されていたが,高濃度のヒ素を含有する大量の湧水が発生することは想定していなかった.そこで,ヒ素の溶出源と溶出機構の解明に関する検討を行った.その結果,ヒ素は花崗岩体周辺部に広く鉱染状に分布するヒ素鉱物(硫ヒ鉄鉱)に由来することが判明した.また溶出機構に関しては,岩体表層の風化帯中でこのヒ素鉱物が酸化溶解し,水酸化鉄をその場に沈積して生じたヒ素含有地下水が破砕帯に沿って流下しトンネル内に湧出していると考えられた.
花崗岩体からのヒ素含有トンネル湧水,また花崗岩質岩石掘削ずりからのヒ素の溶出については,わが国では報告例が少なく,今後の山岳トンネル建設における事前地質調査において留意すべき重要な知見と思われる.