鹿児島県北部で建設中の北薩トンネルは,紫尾山花崗岩体の南西部および四万十層群を貫く山岳トンネルで,トンネル掘削中に高濃度のヒ素を含む大量の湧水(最大で1,200t/h)が発生した.事前調査の結果から,ヒ素を含むトンネルずりの発生が想定されていたが,高濃度のヒ素を含有する大量の湧水が発生することは想定していなかった.そこで,ヒ素の溶出源と溶出機構の解明に関する検討を行った.その結果,ヒ素は花崗岩体周辺部に広く鉱染状に分布するヒ素鉱物(硫ヒ鉄鉱)に由来することが判明した.また溶出機構に関しては,岩体表層の風化帯中でこのヒ素鉱物が酸化溶解し,水酸化鉄をその場に沈積して生じたヒ素含有地下水が破砕帯に沿って流下しトンネル内に湧出していると考えられた.
花崗岩体からのヒ素含有トンネル湧水,また花崗岩質岩石掘削ずりからのヒ素の溶出については,わが国では報告例が少なく,今後の山岳トンネル建設における事前地質調査において留意すべき重要な知見と思われる.
中米のホンジュラス共和国では,鉱山資源の探査や研究,斜面災害対策等を目的として高等教育機関における応用地質学関連分野の専攻部門の設立を計画中である.著者らは独立行政法人国際協力機構の活動の一環で,ホンジュラス国立自治大学に対して,日本の大学における応用地質学教育の事例を踏まえて,応用地質学関連分野の専攻部門の設立に係る課題を整理したうえで実務的な提案を行ってきた.
提案はカリキュラムに関わるもの,体制・組織に関わるもので,前者では地球科学入門,地球科学,応用GIS学,環境地質学,斜面防災学に係る授業科目の追加を提案し,カリキュラムマップを整理した.後者では「地質学教員の補充」と「他学部や他機関との連携・協力」を,それぞれ提案した.
本文は,これら課題と提案内容を取りまとめたものである.
山口県中南部においてNE-SW方向の才ヶ峠(さいがたお)構造線(全長約20km)は,三畳-ジュラ紀周防(すおう)変成岩とペルム紀大田層群との地質境界断層として知られてきた.これまで,この構造線に関連した断層変位地形や活断層露頭の記載はされてこなかった.地形・地質調査によって,才ヶ峠構造線の近傍に断層露頭Loc. 1(宇部市長小野)と断層露頭Loc. 2(美祢(みね)市真名)を新たに発見した.断層露頭Loc. 1では,大田層群の泥岩と周防変成岩の泥質片岩の境界に,断層が認められ,この断層は才ヶ峠構造線に該当するが,低位段丘堆積物に変位・変形を与えていない.断層露頭Loc. 2では,大田層群の砂岩ないし泥岩中に断層が認められる.本露頭は,才ヶ峠構造線の40m西側という非常に近い位置に分布し,断層の走向は才ヶ峠構造線と同様のNE-SW走向であることから,才ヶ峠構造線に関連した断層と考えられる.
本露頭において,破砕帯と周囲の母岩の境界面は,中位段丘堆積物(約8.5~9万年前(阿蘇4火山灰堆積時)~13万年前(MIS5eに相当)以降)に変位を与えている.
以上のことから,才ヶ峠構造線は少なくとも,その一部は活断層であり,その最新活動時期は少なくとも後期更新世以降の可能性がある.