2023 年 64 巻 4 号 p. 172-182
近年増加する斜面災害では,誘因となる豪雨や地震の研究は進んでいるが,素因となる斜面内部の変形機構を調べることが難しい.このため,斜面災害に対応するためには,斜面内部の複雑な重力変形機構を評価することが課題である.著者らは,まずバランス断面法が危険な斜面内部の重力変形機構を評価できることを再確認した.そして,バランス断面法を迅速・汎用的に再現できる数値解析手法として,新しい有限要素法(BaFEM)を開発した.バランス断面法では,地層同士のずれや剥離を伴う大変形が発生する.このため,従来の有限要素法ではバランス断面法を表現することは難しい.本研究では,既往の有限要素法を改良し,要素同士が一定の距離から離れることで削除,生成が繰り返される接触要素を導入する手法が考案される.これにより,ずれや剥離が発生する座屈やトップリング等の複雑な斜面重力変形の表現が可能になり,大変形時の斜面内部の応力・ひずみが時々刻々に評価できた.つまり,開発した有限要素法を利用すると,重力変形した実斜面の再現解析においても,変形形態のみならず,今後の変形予測も可能であり,重力変形斜面のリスク評価や防災・減災対応ができる.