抄録
1997年鹿児島県北西部地震における森林の崩壊防止効果を, 幼樹林と周囲の成樹林の崩壊分布の比較で試算した.
数年前に植樹された震源付近の幼樹林において多くの斜面崩壊が発生した. 一方, 周囲の成樹林では崩壊密度は相対的に低かった. これは根系の発達の違いによるものと考えられる. 著者は幼樹林に沿った測線上において斜面傾斜, 表土深, 土質を調査し, 崩壊が発生した斜面では非崩壊の斜面に比べ表土が相対的に厚かったことを明らかにした. 安定な最大表土深は, 斜面勾配46度の幼樹林で115cm, 成樹林では140cmと見積もった. 各サイトでの土の粘着力の差, すなわち根系の効果は水平震度0.5, 斜面勾配46度, 土の内部摩擦角30度の場合で, 2.65kPaである. この値は過去の研究において実験的に得られたいくつかのデータと類似し, 水平震度で0.15に相当する. 根系は降雨時と同様に地震時においても表土が崩壊するのをある程度防ぐことができると結論される.