抄録
キンカンの新しい無核性品種育成のために,‘清見’タンゴール[Citrus unshiu Marcow. × C. sinensis (L.) Osbeck]とニンポウキンカン(Fortunella crassifolia Swingle)間の属間交雑を行った結果,2 個の完全種子と 7 個の不完全種子が得られた.交雑から得られた種子を MT 培地上で培養したところ,2 個の完全種子のみが発芽し,植物体へと成長した.まず,これらの実生の倍数性を確認するために,フローサイトメーターを用いたゲノムサイズ分析を行った.両実生は,ともに三倍性のピークを示したものの,それらの間には染色体 1 本以上に相当するゲノムサイズの差がみられた.このため,染色体の観察を行ったところ,一方の実生が 27 本の染色体を有する三倍体であったのに対し,他方は 28 本の染色体を有する異数体であることが明らかになった.次に,RAPD 分析を行った結果,両実生は両親に特異的なバンドを有しており,雑種であることが確認された.また,オルガネラ DNA 領域の CAPS 分析によって,両雑種が‘清見’タンゴールのオルガネラゲノムを有することを確認した.これらの雑種は,すでに着花・結実に至っており,今後キンカンの新品種もしくは無核性品種育成のための中間母本となることが期待される.