Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
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原著論文
葉緑体 DNA の多型によって示される‘太郎冠者’とワビスケツバキ品種の母系祖先
谷川 奈津小野崎 隆中山 真義柴田 道夫
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2010 年 79 巻 1 号 p. 77-83

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抄録

ワビスケツバキ‘太郎冠者’は,古くからある起源不詳の品種である.形態的特徴から,ヤブツバキと中国原産ツバキの雑種由来であると考えられている.‘太郎冠者’の母系祖先種を明らかにするため,ツバキ属植物の葉緑体 DNA の多型について調べた.17 交配組み合わせから得た 57 種間雑種系統の atpI-atpH 領域について PCR-RFLP 分析を行い,ツバキ属植物の葉緑体 DNA が母系遺伝することを確認した.atpI-atpH 領域の PCR-RFLP 分析およびシークエンス解析の結果と,これまでに得られている形態的特徴に基づく知見を参考にして,‘太郎冠者’の母系祖先種は,中国原産のピタルディ・ピタルディであると結論した.ワビスケツバキ品種は,成立起源により,2 つのグループに大別される.‘太郎冠者’の子孫であると考えられているワビスケツバキ品種では,そのほとんどが atpI-atpH 領域中に‘太郎冠者’型の一塩基多型を有しており,これらの品種が‘太郎冠者’を母系祖先として成立していることが示された.ヤブツバキ型の一塩基多型を有していた‘姫佗助’,‘胡蝶佗助’,‘数寄屋’は,おそらくヤブツバキを種子親として生じた‘太郎冠者’由来のワビスケツバキ品種であると考えられる.ヤブツバキの突然変異で生じたワビスケツバキ品種では,‘吉備’以外は全てヤブツバキ型の一塩基多型を有していた.‘吉備’は‘太郎冠者’型の一塩基多型を有していたことから,‘太郎冠者’由来のワビスケツバキであることが示唆された.

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© 2010 園芸学会
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