抄録
自家不和合性はブンタン,ブンタン雑種およびミカン類で知られているが,その機構および自家不和合性遺伝子(S)の対立遺伝子については珠心胚形成,雄性不稔,実生の長い幼若性などの障壁があるために十分研究が進んでいない.本研究では,グルタミン酸―オキザロ酢酸アミノ基転移酵素(GOT)を支配する遺伝子の一つであり,S 遺伝子と連鎖していることが示唆されている Got-3 対立遺伝子がつくるアロザイムを実生の葉や発芽胚を用いて分析し,実生群における歪み分離から S 遺伝子型を推定した.S 遺伝子型を S1S2 と定義した‘晩白柚’を含む単胚性の自家不和合性 8 品種を用いた 11 の正逆交配組合せから得た 22 実生群において 3 正逆交配から得た 6 実生群が歪み分離を示したことから,‘土佐ブンタン’を S1S3,‘ハッサク’を S4S5,‘ユゲヒョウカン’を S6S7,‘シシユズ’を S1S6 と推定した.さらに,自家不和合性 8 品種とこれらの品種を交配して 8 実生群を作成し,それらにおけるアロザイムの歪み分離を調査した結果,‘ヒュウガナツ’が S1 対立遺伝子を持つ可能性が示唆された.また,多胚性で自家不和合性の 5 品種とこれらの品種を交配して 15 実生群を作成し,それらにおけるアロザイムの歪み分離を調査した結果,‘ラフレモン’も S1 対立遺伝子を持つ可能性が示唆された.Sf を含む S1 から S8 までの対立遺伝子からなるこれらのカンキツ品種の推定遺伝子型は今後多くの品種・個体の遺伝子型の推定と確定に役立つことが期待される.