Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
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80 巻, 3 号
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総説
  • 國久 美由紀
    2011 年 80 巻 3 号 p. 231-243
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    栽培イチゴ(2n = 8x = 56)は収益性が高く,世界的に重要な農産物であり,より優れた品種を育成するため,多くの育種家がしのぎを削っている.しかし,高い関心を集めているにも関わらず,QTL 解析を利用した DNA マーカー選抜育種は二倍体作物に比べて非常に遅れており,この原因はイチゴのゲノム構造が未解明の高次倍数性(八倍体)であることにある.この 10 年で DNA マーカー技術は大きく進歩し,遺伝研究,連鎖地図作成および系統解析は急速に進展しつつある.一方で,生鮮イチゴの広域流通量が増加するに従い,イチゴの育種家は,育成品種に対する権利をより強く意識するようになってきている.許可なく栽培された果実を検出する必要性から,簡易で再現性の高い品種識別技術の開発が求められている.本総説では,著者らが開発したゲノム特異的マーカーを中心に,栽培イチゴにおける最近の DNA マーカー研究の進展を紹介する.
原著論文
  • 李 積軍, 小森 貞男, 佐々木 研, 耳田 直純, 松本 省吾, 和田 雅人, 副島 淳一, 伊藤 祐司, 増田 哲男, 田中 紀充, 滋 ...
    2011 年 80 巻 3 号 p. 244-254
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    多数のリンゴ品種を簡便な方法で効率よく形質転換することを目的に,アグロバクテリウム法による形質転換実験を試みた.実験には葉切片からの直接再分化系を用いた.除菌用抗生物質として,シュート再分化を阻害するセフォタキシム(CTX)の代わりにメロペネム(MEPM)の効果を調査した.その結果,50 mg・L−1 の MEPM は従来使用されている CTX と比較して形質転換効率を大幅に向上させることが判明した.また,形質転換細胞選抜用の抗生物質であるカナマイシン(KM)の効果的な使用方法を把握するために KM の培地への添加時期に関する試験を行った.共存培養終了直後の KM の添加がシュート形成率は低いものの,形質転換細胞の増殖と形質転換シュートの誘導のために効果的であった.これらの試験によって得られた知見をもとに,Agrobacterium 感染前の葉切をシュート再分化培地に数日間置床する前培養処理を試みた.その結果,3 から 7 日間の前培養によって,前培養を行わない場合と比較して形質転換効率が向上した.MEPM と前培養処理の併用によって複雑な手順無しでも‘Greensleves’の形質転換効率を約 5%に向上させることに成功した.
  • 小林 弘憲, 鈴木 俊二, 高柳 勉
    2011 年 80 巻 3 号 p. 255-267
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    ブドウ品種‘甲州’Vitis vinifera は,約 1000 年の歴史を持つ日本固有の品種であり,その生産量の 90%以上が山梨県で栽培されている.本研究の目的は,成熟期の甲州ブドウの各種成分を気象環境の異なる 3 地域で測定し,それら成分と気象環境の関係を明らかにすることである.すなわち,山梨県内 3 箇所の栽培地域(甲府,韮崎,勝沼)において栽培された甲州ブドウについて,ワイン原料として重要な成分である糖度(TSS),pH,窒素(YAN),酸度(TA),全フェノール(TP),果粒重量類等を測定し,そのデータと各地域の気象データの関係を 2004 年から 2007 年の 4 年間にわたって解析した.甲府は,積算日照時間が最も長く,糖の蓄積量も他の 2 地域と比較して生育後期に有意に高かった(P < 0.05).勝沼は,最高気温と最低気温の温度差が他の 2 地域に比べ大きく,果皮におけるアントシアニンの蓄積量も他の 2 地域と比較して生育後期に有意に高かった(P < 0.05).また,果汁中の TP 量も他の 2 地域と比較して高かった(P < 0.05).果汁中の YAN 含量は,地域に関わらず,いずれの気象条件にも影響を受けなかった.3 つの地域の中で標高の最も高い韮崎は,平均気温が最も低く,ブドウの成熟が甲府と比較して数週間遅かった.開花 10–14 週経過(8 月)の日照時間が他の気象条件(降雨量,平均気温,最高気温と最低気温の温度差)と比べて甲州ブドウの TSS,YAN,TA,TP,クータリック酸などの果実成分値と最も高い相関を示した.また,8 月の平均気温も開花 14–17 週経過(9 月)や開花 18–20 週経過(10 月)に比べ,TSS,TA,TP などの果実成分値と高い相関を示した.以上の事から甲州ブドウの果実成分値には 8 月の気候が大きく影響することが明らかとなった.これら知見は甲州種ブドウの栽培適地の選択において有用な情報となり,将来の甲州ワインの品質向上に寄与すると期待される.
  • 山本 雅史, 河野 留美子, 中川 剛志, 臼井 拓磨, 久保 達也, 冨永 茂人
    2011 年 80 巻 3 号 p. 268-275
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    奄美諸島在来カンキツ遺伝資源の類縁関係について,アイソザイム,RAPD および葉緑体 DNA の CAPS 分析を実施して検討した.アイソザイムでは 3 種類の酵素の 4 遺伝子座を分析した.グルタミン酸オギザル酢酸トランスアミナーゼ(GOT)-1 では 4 種類の,GOT-2 では 3 種類の,パーオキシダーゼ(PX)では少なくとも 6 種類の遺伝子型が検出できた.スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)では 1 系統を除き供試全系統が同一遺伝子型を示した.同一種および同種類の系統は同一の遺伝子型を示すことが多かったが,シィクワーサーにおける PX のように種および種類内での多様性も認められることもあった.RAPD 分析の結果から NJ 法で類縁関係を推定したところ,供試系統は A,B および C の 3 つのクラスターに大別できた.A クラスターには C. nobilis(クネンボ),C. keraji(‘ケラジ―喜界島’およびカブチー)並びに C. oto(オートー)が属した.B クラスターには対照種のみが属した.C クラスターはさらに 4 区分できた.すなわち,シィクワーサーサブクラスター,ダイダイ類縁種サブクラスター,‘キカイミカン―沖永良部島’および‘シマミカン’である.葉緑体 DNA 分析により供試系統は 3 種類に区分できた.タイプ I には C. nobilis(クネンボ),C. keraji(‘ケラジ―喜界島’およびカブチー),C. oto(オートー),‘ケラジ―加計呂麻島’,‘オート―沖永良部島’並びに C. rokugatsu が,タイプ II には C. depressa(シィクワーサー),‘キカイミカン―沖永良部島’,‘クサ’および‘シークー’が,タイプ III には‘シマミカン’のみが含まれた.RAPD 分析における A クラスターに属するすべてのマンダリンが葉緑体 DNA 分析においてタイプ I を示し,葉緑体 DNA 分析におけるタイプ II・III のマンダリンは RAPD 分析において C クラスターに属した.
  • 山根 久代, 田尾 龍太郎, 大岡 智美, 上達 弘明, 佐々木 隆太, 米森 敬三
    2011 年 80 巻 3 号 p. 276-283
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    モモ EVERGROWING 遺伝子座に座乗する PpDAM5 および PpDAM6 遺伝子は,シロイヌナズナ MADS-box 遺伝子 SVP/AGL24 の相同遺伝子である.近年,両遺伝子のモモ側芽自発休眠への関与が示唆されてきている.そこで本研究では,モモ多低温要求性品種と少低温要求性品種を供試して,PpDAM5 および PpDAM6 遺伝子の低温要求性への関与を調査した.両遺伝子の季節的な発現様式を調査した結果,両遺伝子の発現量は自発休眠深度と負の相関を示すことが明らかとなった.また,花芽の肥大速度の速さとも負の相関を示した.したがって,PpDAM5 および PpDAM6 遺伝子は,芽内部において成長抑制因子として機能していることが示唆された.また,以上の結果は多低温要求性品種および少低温要求性品種のいずれにおいても認められたため,PpDAM5 および PpDAM6 遺伝子がモモ花芽および葉芽の低温要求性に関与していることが示唆された.少低温要求性品種の PpDAM5 および PpDAM6 遺伝子の第 1 イントロンには比較的長い挿入配列が検出された.本論文では,PpDAM5 および PpDAM6 遺伝子のゲノム構造の変化と少低温要求性との関連性について議論した.
  • ノー スンビン, 金 貞希, 若菜 章, 一色 司郎, 森 智代
    2011 年 80 巻 3 号 p. 284-294
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    自家不和合性はブンタン,ブンタン雑種およびミカン類で知られているが,その機構および自家不和合性遺伝子(S)の対立遺伝子については珠心胚形成,雄性不稔,実生の長い幼若性などの障壁があるために十分研究が進んでいない.本研究では,グルタミン酸―オキザロ酢酸アミノ基転移酵素(GOT)を支配する遺伝子の一つであり,S 遺伝子と連鎖していることが示唆されている Got-3 対立遺伝子がつくるアロザイムを実生の葉や発芽胚を用いて分析し,実生群における歪み分離から S 遺伝子型を推定した.S 遺伝子型を S1S2 と定義した‘晩白柚’を含む単胚性の自家不和合性 8 品種を用いた 11 の正逆交配組合せから得た 22 実生群において 3 正逆交配から得た 6 実生群が歪み分離を示したことから,‘土佐ブンタン’を S1S3,‘ハッサク’を S4S5,‘ユゲヒョウカン’を S6S7,‘シシユズ’を S1S6 と推定した.さらに,自家不和合性 8 品種とこれらの品種を交配して 8 実生群を作成し,それらにおけるアロザイムの歪み分離を調査した結果,‘ヒュウガナツ’が S1 対立遺伝子を持つ可能性が示唆された.また,多胚性で自家不和合性の 5 品種とこれらの品種を交配して 15 実生群を作成し,それらにおけるアロザイムの歪み分離を調査した結果,‘ラフレモン’も S1 対立遺伝子を持つ可能性が示唆された.Sf を含む S1 から S8 までの対立遺伝子からなるこれらのカンキツ品種の推定遺伝子型は今後多くの品種・個体の遺伝子型の推定と確定に役立つことが期待される.
  • 太田 智, 遠藤 朋子, 島田 武彦, 藤井 浩, 清水 徳朗, 國賀 武, 吉岡 照高, 根角 博久, 吉田 俊雄, 大村 三男
    2011 年 80 巻 3 号 p. 295-307
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    カンキツトリステザウイルス(CTV)は,カンキツに重大な被害を引き起こす重要病害の一つである.カンキツ属との交雑が可能であるカラタチ[Poncirus trifoliata(L.)Raf.]は,広範な CTV の系統に対して抵抗性を示す.これまでに,カラタチの CTV 抵抗性をカンキツ属に導入するために育種計画が実行され,中間母本が育成されたことで,経済品種の作出に道が開かれてきた.本研究では,マーカー選抜により効率的に CTV 抵抗性をカンキツ属に導入できるように,CTV 抵抗性に連鎖した 4 つの DNA 選抜マーカーおよび各連鎖群上のカラタチの対立遺伝子を識別する 46 のマーカーを開発した.CTV 抵抗性連鎖マーカー 4 つのうち,1 つは共優性マーカーである Single Nucleotide Polymorphism マーカーで,3 つは優性マーカーの Sequence Tagged Site マーカーであった.これら全てのマーカーで,2.8%の例外を除き,後代における CTV 抵抗性・感受性とマーカーの有無とが一致した.さらに,これらのマーカーは高度にカラタチ特異的であり,検定したカンキツ属 35 の全品種・系統に対して適応可能であった.カラタチ由来の対立遺伝子を排除するための判別マーカーでは,46 のうち 9 マーカーが CTV 抵抗性の座乗する第 2 連鎖群に位置した.また,他の 31 マーカーを残りの 8 連鎖群におくことができた.これらのマーカーは,カンキツ属 35 品種・系統のうち少なくとも 1 つ以上の品種・系統に対し,カラタチ由来の対立遺伝子を識別することができた.本研究で開発されたプライマーセットは,戻し交雑により CTV 抵抗性を様々なカンキツ属系統に導入するためのマーカー選抜に利用可能と考えられた.
  • 堀内 和奈, 安達 由美子, 笠井 登, 山岸 真澄, 増田 清
    2011 年 80 巻 3 号 p. 308-313
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    雄性決定遺伝子座を同型および異型接合としてもつアスパラガス(Asparagus officinalis L.)植物体を雄性判別マーカーの数量解析によって識別した.植物個体におけるマーカーの相対量は,PCR における増幅量をリアルタイムで測定した値をもとに算出した.雄性判別マーカーには Asp1-T7(Jamsari et al., 2004)の内部配列(AspTaq1)を用い,単一コピー遺伝子である AODEF の内部配列 AODEF-Taq1 量で補正した値を AspTaq1 の相対量とした.既に超雄性が明らかとなっている系統を用い AspTaq1 相対量を調べたところ,その平均値は市販種子由来の雄性個体の値より高く,その比はほぼ 2 : 1 であった.次に,同型接合雄性(MM),異型接合雄性(Mm),雌性(mm)の遺伝子型をもつ植物体を,雌雄同体性雄性株の自殖によって得た種子から育成し,AspTaq1 量を推定した.その結果,植物体は値によって 3 つのグループに分類され,高い AspTaq1 量を示した個体は同型接合雄性,中間の数値を示した個体は異型接合雄性であることが示唆された.AspTaq1 の有為な増幅が検出されなかった個体は雌性と判断された.そこで,雄性花を着生した個体について,採取した花粉を雌性個体に授粉し,次世代に雄のみを生じる親個体(超雄性個体)を特定した.次世代個体の性を Asp1-T7 の内部塩基配列を用いて調べたところ,AspTaq1 値の高い 2 個体から採取した花粉は次世代に雄性個体のみを生じた.一方,中間の数値を示した 12 個体の花粉は雄性個体と雌性個体の両方を生じ,1 個体の花粉は雄性個体のみを生じた.同型接合雄性個体の場合,AODEF-Taq1 と AspTaq1 の数量比は,それらを 1 コピーずつ含む組換え DNA を鋳型として得られた数量比とほぼ同等であった.これらの結果は,雄性決定遺伝子座と連鎖する塩基配列の定量解析によって同型接合雄性および異型接合雄性アスパラガス植物体の特定が可能であること,雄性判別マーカーおよびコピー数の基準となる配列をもつ組換え DNA の利用がこれら遺伝子型識別の信頼性向上に有用であることを示している.
  • ジャン ヌール エラヒ, 河鰭 実之
    2011 年 80 巻 3 号 p. 314-321
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    トマトでは,果実肥大成長期に固形分のかなりの割合を蓄積する.この時期における水と同化産物の果実への流入バランスは,収穫時の固形分濃度を決定する重要な要因である.この研究では,急速な肥大成長期にある果実における師部液の糖濃度と果実固形分濃度との関係を調べた.第 1 果房の開花時に,第 1 果房直上の茎にヒートガードリング処理を行い,一方,第 2 果房より上の葉はすべて取り除くことにより,第 2 果房とその下の 3 枚の葉からなるソース・シンク単位とその他の植物体の部分との間の炭水化物の輸送を抑えた.この単離されたソース・シンク単位における果実あたりの葉数(葉果比)を,第 2 果房の着果確認後に様々に設定した.葉果比が 0.2 から 1 に増加すると,果実の乾物重は,葉果比に比例して 3.5 g から 7 g に直線的に増加した.しかし,葉果比が 1 を越えると果実乾物重はほぼ一定であった.一方,果実の乾物率と糖濃度は,葉果比 0.2~3 の範囲で,葉果比と正比例の関係にあった.EDTA 法の変法により測定した師部液の糖濃度も同様に,葉果比の増加にしたがって高まった.また,師部液糖濃度と乾物率および果実糖濃度との間に正の相関関係がみられた.これらの結果から,果実の糖濃度は,広い葉果比において師部液の糖濃度と比例して決定されると考えられた.
  • 正村 典也, 谷口 成紀, 小野 靖憲, 中島 徹也, 増崎 真一, 今井 真介, 山内 直樹, 執行 正義
    2011 年 80 巻 3 号 p. 322-333
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    シャロット由来単一異種染色体添加がネギの遊離アミノ酸およびシステインスルホキシド(ACSO)生産に及ぼす影響を明らかにするために,8 種類のシャロット由来単一異種染色体を添加したネギ系統シリーズ(2n = 17,第 1 添加型―第 8 添加型)の葉身組織の遊離アミノ酸および ACSO 含量を 3 か月ごとに一年間測定した.その結果,いずれの系統においてもシステインは最も多く含まれるアミノ酸であった.また,第 3 添加型,第 4 添加型,第 5 添加型および第 8 添加型の四系統では,その他の系統や対照区のネギに比べて総 ACSO の増加がみられた.中でも第 3 添加型はメチル CSO 含量が増加しており,その他の系統と異なる ACSO 組成を示した.ACSO 生合成に関与する一連の遺伝子の座乗するシャロット染色体の決定を試みたところ,2A,4A,7A 染色体に分散して座乗することが明らかとなった.これらの結果から,ACOS の大量生産に係わる重要な遺伝子が第 2 染色体,第 3 染色体,第 4 染色体,第 5 染色体,第 7 染色体および第 8 染色体に分散して存在することが示された.また,ACSO 蓄積量の多かった第 5 添加型の染色体添加による遺伝子発現量の変化をマイクロアレイ解析により調査したところ,第 5 染色体にはアデノシン 5'-ホスホ硫酸還元酵素(APSR)遺伝子の調節因子が存在しており,一部の ACSO 生合成に係わる構造遺伝子は別の添加染色体上の調節因子により発現調節されていることが示唆された.
  • 西島 隆明, 仁木 智哉, 仁木 朋子
    2011 年 80 巻 3 号 p. 334-342
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    ペチュニアにおける大輪形質と,花冠を拡大させる作用を持つサイトカイニンの生合成との関係を調べた.大輪品種(大輪化を誘導する GrandifloraG)遺伝子に関して遺伝子型 Gg)では,中輪および小輪品種(遺伝子型 gg)に比較して,花冠の内生サイトカイニン濃度が,遊離型サイトカイニン(N6-(Δ2-isopentenyl)adenine(iP),trans-Zeatin(tZ)),ヌクレオシド型サイトカイニン(iP riboside, tZ riboside),グルコシド型サイトカイニン(iP-7-glucoside)ともに低かった.花冠からは,サイトカイニン生合成酵素をコードするアデノシンフォスフェイトイソペンテニルトランスフェラーゼ遺伝子が 1 種類(SHO),サイトカイニンリボシド 5'-モノフォスフェイトフォスフォリボヒドロラーゼ遺伝子が 1 種類(PhLOG),サイトカイニン酸化酵素遺伝子が 2 種類(PhCKX1PhCKX2)単離された.これらの遺伝子の小輪,中輪,大輪品種の花冠における発現を比較したところ,サイトカイニンの合成に関与する PhLOG および SHO の発現には品種間差異が認められなかったが,イソプレノイド側鎖を除去することでサイトカイニンを分解する PhCKX1 および PhCKX2 の発現は,小輪および中輪品種に比較して大輪品種で著しく高かった.以上の結果から,Gg 遺伝子型を持つ大輪品種では,花冠が大輪化すると同時に,PhCKX1PhCKX2 の発現促進によって内生サイトカイニン濃度が低下し,花冠の拡大が部分的に抑制されていることが示唆された.
  • 西島 隆明, 仁木 智哉, 仁木 朋子
    2011 年 80 巻 3 号 p. 343-350
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    ペチュニアの大輪化を誘導する半優性遺伝子 GrandifloraG)とサイトカイニン初期情報伝達系との関係を調べた.花冠からは,サイトカイニンシグナル伝達系に属するタイプ A レスポンスレギュレーター遺伝子の cDNA が 3 種類(PhRR1PhRR2PhRR3),サイトカイニン受容体遺伝子の cDNA が 1 種類(PhHK)単離された.大輪品種(遺伝子型 Gg)では,中輪および小輪品種(遺伝子型 gg)に比較して,タイプ A レスポンスレギュレーター遺伝子およびサイトカイニン受容体遺伝子の花冠における発現が高かった.また,G 遺伝子の遺伝子型以外の遺伝的背景を均一化した BC4 集団においても,Gg 遺伝子型を持つ個体は gg 遺伝子型を持つ個体に比較して,タイプ A レスポンスレギュレーター遺伝子およびサイトカイニン受容体遺伝子の花冠における発現が高かった.したがって,これらの遺伝子は,Gg 遺伝子型によって発現促進されることが強く示唆された.また,このような遺伝子発現の促進は,サイトカイニン応答によるものと同様であった.タイプ A レスポンスレギュレーターがサイトカイニン反応を抑制することを考慮すれば,G 遺伝子は,大輪化を誘導する一方で,タイプ A レスポンスレギュレーター遺伝子の発現を促進してサイトカイニン反応を抑制することにより,大輪化を部分的に抑制する作用も併せ持つと考えられた.
  • 王 秋紅, 張 楊, 河鰭 実之, 李 玉花
    2011 年 80 巻 3 号 p. 351-357
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    トルコギキョウにおける重複受精および胚と胚乳の発生を顕微鏡により観察した.授粉後,花粉管伸長,花粉管の胚珠への進入,重複受精,胚の発達初期にわたる様々な時間に花を採取した.花粉は授粉 4 時間後に発芽し,花柱内へ進入した.授粉 8 時間後には,花粉管は細胞間隙を通って子房へと伸びた.24 時間後には,生殖細胞は 2 つの精核に分裂した.花粉管は胚珠に 48 時間後に到達し,退化助細胞へ入り 2 つの精細胞を放出した.精細胞の片方は授粉 60 時間後に卵細胞に到達した.授粉 5 日後には,接合体の形成が認められた.60 時間後に精細胞の核は中心核の核膜に近接した.一次胚乳の核は 72 時間後には形成されていた.接合子は,授粉 20 日後に 1 回目の細胞分裂を起こした.その結果生じた 2 つの細胞のうち,頂端細胞は,ふたたび横方向に分裂し,その後発達して胚本体を形成した.したがってこの胚発生パターンはナス型であった.成熟種子はハート形胚であった.接合子の第一分裂の際には紡錘体は一組しか現れず,雌性および雄性核小体の融合が体細胞分裂の前に完了していたことを示したので,核合体は有糸分裂の前に生じていた.
  • 森田 重人, 鳥居 由佳, 原田 太郎, 川原田 将也, 小野寺 玲子, 佐藤 茂
    2011 年 80 巻 3 号 p. 358-364
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    カーネーションの開花反応は花弁細胞の肥大成長の結果としておこり,その過程には花弁細胞内での糖代謝が必要である.花弁細胞における糖代謝の初期過程に機能する遺伝子の候補として,スクロース合成酵素遺伝子(DcSUS1)をクローニングした.DcSUS1 の転写産物は,開花時カーネーションの花組織に多量に検出された.花弁と花柱(柱頭を含む)で最も多く,続いて子房で多かった.他方,茎,葉,がくにおける蓄積は少なかった.さらに,花弁での DcSUS1 転写産物の蓄積量は開花過程,満開時および老化初期にかけてほぼ一定であった.他方,花弁中の DcSUS1 転写産物は老化後期に減少した.これらの知見から,カーネーションの開花時における花弁の成長と成長花弁の維持に,DcSUS1 の発現が関与していることが推定された.
  • Siriphanich Jingtair, Pakcharoen Anak, Mohpraman Kiranun, Tisarum Ruji ...
    2011 年 80 巻 3 号 p. 365-371
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    ドリアン(Durio zibethinus Murray)では,不均一な成熟がたびたび見られるが,その原因は分かっていない.この障害発生の原因究明を目的として,品種‘Mon-Thong’を供試し,果実発育後期に新梢が発芽・展葉した樹や遮光処理した樹より収穫した果実についてその成熟様相を調査した.ドリアンでは,果頂部から果柄部に向かって同化産物の蓄積とデンプンの糖化が進んだ.一方,果実軟化には方向性がなく,この点において不均一な成熟の進行を示した.新梢が発芽・展葉した樹より収穫した果実は,対照区の果実と比べ,可溶性固形物含量には大きな差はなかったが,果実ごとの軟化の進行が不均一であり,また,同じ果実内の果肉硬度にもバラツキが大きかった.50%の遮光を施した樹の満開後 95~105 日目の果実に関して調査したところ,対照区と比べ著しく不均一な果実軟化を示した.一方,遮光を解除した 1 週間後に収穫した果実では,対照区の果実とほぼ同様の成熟を示した.つまり,果実発育や熟度の進行を制限するような要因がドリアンの方向性のない軟化を助長することが分かった.なお,高濃度のエセフォン処理によって,この不均一な成熟の発生は軽減されなかった.
  • モーリア エリック ギュチマ, 吉川 尚志, サリコン ナディア, 小田 知里, 福田 哲生, 末澤 克彦, アシチェ ウィリアム オルベロ ...
    2011 年 80 巻 3 号 p. 372-377
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/22
    ジャーナル オープンアクセス
    異なる熟度で収穫した‘さぬきゴールド’キウイについて MA 貯蔵と 1-MCP 処理が果実の貯蔵性と品質に及ぼす影響を調査した.開花後 136 日後(早期)および 154 日後(晩期)に収穫した果実のいずれでも MA 貯蔵果は普通冷蔵果に比較して果実軟化,可溶性固形物含量の増加,滴定酸含量の減少および果肉色の変化が緩慢であり,MA 貯蔵は‘さぬきゴールド’キウイ果実の貯蔵延長に効果的であることを示した.早期収穫果実は MA 条件では 4 ヶ月後でも果実硬度と可溶性固形物含量のいずれからみても完熟状態には達しておらず,早期収穫によって‘さぬきゴールド’キウイ果実でも MA 貯蔵によって 4 ヶ月の貯蔵が可能になることが示唆された.早期収穫果実は普通冷蔵した場合には晩期収穫果実とほぼ同じ可溶性固形物含量(18%)を示し,通常の商業的収穫時期より 2 週間前に収穫しても最終的な食味品質はほとんど変わらないことを示した.収穫直後の 1-MCP 処理は晩期収穫果実において MA 貯蔵 2 ヶ月目までは果実軟化をやや抑制する傾向を示したが他の条件では顕著な作用を示さなかった.
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